overflowスタートアップ企業overflowは、オンライン上でさまざまな情報提供や情報交換できる場を用意することで、完全リモートでも働きやすい環境を整えている 写真提供:overflow

コロナ禍でテレワークが浸透する中、リモートへの完全な切り替えを実現し、オフィスを解約したスタートアップ企業、overflow。その決断と実行の裏にはどのような検討があったのか。overflowが完全なリモート組織へ移行する過程を追うことで、フルリモートを実現する組織に必要な条件を読み解く。(ライター ムコハタワカコ)

コロナ禍でオフィス解約
そのとき経営者は何を考えたか

 2020年6月に発表された内閣府の調査によると、新型コロナウイルス感染症の影響で部分的にでもテレワークを取り入れた就業者は34.6%に上る。そのうち、ほぼ100%テレワークで働いた人は10.5%で、特に東京圏では約2割の人々がほぼテレワークのみの働き方を経験している。

 従業員のリモートワークが浸透する中で、オフィス拡大を取りやめたり、規模を縮小したりする企業も現れた。そして、オフィスそのものをなくしてしまった企業も出てきている。

 副業・転職のマッチングサービス「Offers(オファーズ)」など、インターネットサービスの開発・運営やウェブコンサルティング事業を営むスタートアップ、overflow(オーバーフロー)は、2020年2月の時点では事業拡大に伴い、広いオフィスへの移転を予定していた。

 しかし新型コロナウイルス感染拡大の影響で、業務が100%リモートに切り替わった4月に180度方針を転換。「オフィス自体をなくす」という決断に至った。

 overflow代表取締役CEOの鈴木裕斗氏は「決断までの1週間、オフィスの位置付けについて改めて深く考えた」と振り返る。

「オフィスを持つことには二つの意味があると思う。一つは生産性を上げるための機能として、もう一つはカルチャーのかけ算による生産性向上の場としてだ」

 このうち、生産性向上の機能については、改めて考えた上「オフラインでない方が、生産性は上がるのではないか」と鈴木氏は感じたという。overflowでは、2017年6月の創業以来2年半の間、すでにオンラインとオフラインが混じり合った働き方を取り入れており、80%以上のメンバーがリモートワークで業務を行っていた。もともと自社でもフリーランスや副業人材が大半を占めていたこともあって、機能面ではオフィスがなくても問題はないと判断した。

 一方、カルチャー醸成の場としては、鈴木氏は従来「同じ空間、時間、体験を共有することで、その会社らしさ、企業文化が育まれる」と考えていた。しかし、コロナ禍でオフィスに集まれないのであれば、その目的も果たされることはない。そこでリモートワークを前提としてカルチャーを育むためには、何をどう変えればいいかという発想に転換し、チャレンジしていくことに決めたという。そして鈴木氏は、リモートワークによって進化する組織の状態を「リモート組織2.0」と名付けた。