一時は売り上げ9割減の状態に
コロナ禍を経て副業人材との交流を経験
新型コロナウイルスの感染拡大は、石川県輪島の地にも影を落とした。観光客は2020年3月ごろから政府の動きやマスコミの報道に合わせて減少し、中浦屋の売り上げも3月から半減。5月には前年比の10%(つまり90%減)にまで落ち込んだ。
中浦社長は「会社始まって以来の出来事。(2007年3月の)能登半島地震でも観光客は一時的に減少したが、時間がたてば回復する見通しがあったし、行政の誘客策もあった。今回ほどのことは今までに経験がない」と語る。
中浦屋では1カ月の間休業し、当番社員のみが出社する体制とした。従業員のほとんどがいない社内で中浦社長も1人で過ごす時間が増え、「生き残れなかった場合のことや会社のたたみ方など、良くないことばかり思い浮かぶこともあった」そうだ。
幸い、雇用調整助成金などに助けられ、従業員の雇用は100%守ることができた。考える時間はたっぷりあったため、中浦社長はオンラインで情報収集し、自ら助成金などの政府施策に対する申請のための書類づくりをする中で、会社の状況を把握することができ、また頭の中が整理できたという。
「2年前の2018年、能登の素材を生かした新商品『輪島プリン』を作ったころのことを思い出した。当時も会社は厳しい状況にあったが、新商品で業績が改善した。今回も新たな取り組みはまだまだやれると考え、7月ぐらいになると戻ってくる顧客の顔が見え始めるようになった」(中浦社長)
そんな折、石川県の担当者から副業人材が参加する社会人向けのインターンシップ交流会に参加しないかと声がかかった。
もとより人材不足が慢性的だった石川県では、北陸新幹線の開通で人材が金沢に集中。また県内に大型ショッピングセンターも開業しており、人手は全体に不足していた。能登地方ではさらに人手不足が顕著だったため、中浦屋でも「県外から人材を確保できないか」ということで2019年暮れから寮を整備するなど、対応を練ってきた。
県外からの人材獲得の一環として、1年ほど前には石川県の「ふるさとワーキングホリデー」にも就業先として参加した。総務省が中心となって音頭を取り、各自治体で実施されているこの取り組みでは、都市部の若い人が一定期間滞在して地方の仕事と暮らしを体験する。中浦屋にも20代の女性がやってきて販売などの業務に従事したが、インスタグラムなどで自主的に商品情報などを発信してくれたという。
「当社でもECサイトはあったが、若い人が入ることで販促など、できていなかったことができるのだなという実感があった」(中浦社長)
2020年10月、リクルートキャリアのプロデュースで石川県が主催した社会人向けインターンシップ交流イベントには、中浦屋を含む県内の3社が参加。副業・兼業やUターン・Iターンを検討する社会人45名が、オンラインワークショップで各社の課題に取り組んだ。
中浦屋が参加者に課したお題は、新商品『金澤ぷりん』の売り上げを伸ばすこと。コロナ禍で効果的なオンラインキャンペーンを企画するというワークショップには20名が参加し、最後にはグループに分かれての発表があった。
ワークショップで中浦社長は、参加者が意見交換から情報共有を行い、オンラインでリアルタイムに書類ができていく過程を見て「スピード感、専門性を感じた」と語る。アイデア自体は地域の活性化まで目指すなど、すぐに取り組むには重いものだったが、「交流をきっかけに仕事を依頼できればいいな」と感じるイベントだったそうだ。