人口減少で内需が縮小するこの国で、「日本のメーカーは日本の顧客を大切にしていればよし」などという夢物語が通用する時代は、とっくに終わりを迎えている。

 日本国内の製品やサービスの「質」を維持するには、日本企業に成長し続けてもらうしかない。それはつまり、中国市場をはじめとした海外に「日本ブランド」をしっかりと売り続けてもらうということでもあるのだ。

「日本のおもてなし」は
本当に世界一なのか

 今回、李さんの話を聞いて、数年前、ある外国人の友人から言われたことを思い出した。この人物は「日本のおもてなしは世界一」だというから日本に行くことを楽しみにしていたが、実際に訪れてみるとその印象が変わったという。

 宿に泊まると、料理がすべて決められていて、ほとんど選択の余地がない。レストランでも、店側が決めた定食やセットの中から選ぶという方式が圧倒的に多く、料理について「こうして欲しい」「あれを変えて欲しい」ということを言うと、かなり厄介な客だと思われてしまうことに、ちょっとした違和感を覚えたのだ。

 要するに「日本のおもてなし」というのは、客側の要望はほとんど通ることなく、店側が「良いと考えるサービス・食事」が一方的に押し付けられている印象を受けたというのだ。

 正直、この感覚は日本人にはあまりピンとこないだろう。多くの日本人にとって「おもてなし」とは、かゆいところに手が届くというか、相手の気持ちや欲求に先回りして対応する「阿吽の呼吸」のようなものだからだ。

 ただ一方で、世界にはこの外国人のような感覚の人たちもたくさんいる。コロナ禍が収束して、再び世界から観光客を迎え入れていこうと考えるのなら、観光業も「外国人はどうせこういうのが好きなんでしょ」という思い込みを改めて、外国人観光客側の立場にとって、日本に何を求め、どんなことを楽しみたいのかということを、真摯に考えるべきではないか。

「日本ブランド」に本当に必要なのは、発信力やマーケティング強化よりも、多種多様な価値観に対応できる「柔軟さ」なのかもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)