「圧倒的な結果」を出すために必要なのは、
「自信」ではなく「確信」
安藤 そうそう。要するに、「事実を認める」ということ。これは、すごく大切なことですね。
「事実を認める」という点では、僕は、金沢さんが『超★営業思考』に書かれていた「ポジティブ・シンキングは危険である」という一節には大賛成ですね。その通りなんです。よく「ポジティブに生きていけばいい結果がついてくる」みたいなことを自己啓発セミナーで喧伝している人がいますが、あれ、嘘ですからね。
金沢 嘘ですね。
安藤「ポジティブに生きていけばいい結果がついてくる」なんて、あり得ないですから。目標を決めて、やってみて、その結果を「事実」として検証して、行動を修正していく。このPDCAを回す以外に、「結果」が出ることは絶対にない。世の中、「事実」の積み重ねで動いているんです。
金沢 そのとおりですね。そういえば、覚えていらっしゃいますか? 以前、男子柔道60kg以下級でオリンピックを3連覇した野村忠宏さんを交えて安藤さんとお食事したときのこと。
オリンピックの試合前に何をしていたかと聞いたんです。メンタルを調整する秘訣が聞けるかもしれないと期待して……。だけど、野村さんはこんな話をされたんです。
「試合の直前にトイレの鏡の前に立って、自分の目を見ながら、『今日、お前は何をするためにここに来たんだ? ビビって負けるために来たのか? 勝つために来たんだろう』と自問自答をしましたね。それで、この日のために積み重ねてきた努力を思い浮かべて、『やれることは全部やり尽くした。あとはそれを出すだけだ』と自分に言い聞かせて、最後は冷たい水でバチーンと頬を一発叩いて、試合に向かいました。試合の日に特別な自分がいるわけではなく、4年間の努力の成果を出すだけだと思っていました」
すごい話だと思いましたね。
元プルデンシャル生命保険ライフプランナー AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
入社1年目にして、プルデンシャル生命保険の国内営業社員約3200人中の1位(個人保険部門)になったのみならず、日本の生命保険募集人登録者、約120万人の中で毎年60人前後しか認定されない「Top of the Table(TOT)」に3年目で到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な実績を残した。
1979年大阪府出身。東大寺学園高校では野球部に所属し、卒業後は浪人生活を経て、早稲田大学理工学部に入学。実家が営んでいた事業の倒産を機に、学費の負担を減らすため早稲田大学を中退し、京都大学への再受験を決意。2ヵ月の猛烈な受験勉強を経て京都大学工学部に再入学。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍した。
大学卒業後、2005年にTBS入社。スポーツ番組のディレクターや編成などを担当したが、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じて、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命保険に転職した。当初は、アポを入れようとしても拒否されたり、軽んじられるなどの“洗礼”を受けたほか、知人に無理やり売りつけようとして、人間関係を傷つけてしまうなどの苦渋も味わう。思うように成績を上げられず苦戦を強いられるなか、一冊の本との出会いから、「売ろうとするから、売れない」ことに気づき、営業スタイルを一変させる。
そして、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRT(Million Dollar Round Table)の6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、自ら営業をすることなく「あなたから買いたい」と言われる営業スタイルを確立し、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な業績をあげた。
2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReebo(アスリーボ)株式会社を起業した。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。
安藤 そうそう。金沢さんに野村さんを紹介していただいたときに、僕が野村さんに聞いたんですよね。「恐怖心をどのようにコントロールしていますか?」と。
スポーツ選手って、トップクラスまでいってしまうともう、身体的な能力の差はそこまでないと思うんです。でもパフォーマンスを発揮できる人とできない人が生まれ、勝者と敗者が生まれる。その差は何か。僕は、「恐怖心をいかにコントロールできるか」というメンタルの部分だと思うんです。
「オリンピックを3連覇した」ということは、「3回とも、世界中の誰よりもうまく恐怖心をコントロールできた」ということ。その方法は何なのかが知りたくて、教えていただいたんですよね。
金沢 その答えが「試合の日に特別な自分がいるわけではなく、4年間の努力の成果を出すだけ。この日のために積み重ねてきた努力を思い浮かべて、『やれることは全部やり尽くした。あとはそれを出すだけだ』と自分に言い聞かせた」。すごい言葉ですよね。
安藤 ええ。試合前に行っていたのは「恐怖をコントロールする作業」ではなく、「恐怖に打ち勝つだけの努力をしてきたことを確認する作業」だったんですね。「自分は今まで、誰よりも練習してきた」という「事実」を確認していたんです。これにはごまかしがありませんから、「やれることはやりきった」という確信を持てる。だから結果的に、恐怖心を克服できるということなんでしょう。
金沢「自分のやってきたことの積み重ね」を確認しているわけですから、根拠のない「自信」や「ポジティブ・シンキング」とは全然違う。
安藤 そうそう。そもそも「自信」なんて、自分をごまかす言葉ですからね。「自分を信じる」なんて、実はどうでもいい話です。「自分が確かにやってきた事実」を信じる「確信」とは決定的な違いがあります。
金沢「誰よりも練習した」「やれる限りの努力をした」という事実を積み上げて、その事実を信じる。TBS時代に、数々のアスリートを取材させてもらった中で、結果を出す人はみんな、「自信」ではなく「確信」を持っていたと感じます。
「根拠のない自信」なんて、本当に意味ないですからね。ポジティブ・シンキングで「おれはやればできる」って言う人がいるけど、「いやいや、やってないやん!」「やったらええやん!」って思いますよ。
安藤 わかる(笑)。
金沢 たとえどんな小さな結果でもいい。「根拠のない自信」なんかにすがる前に、「努力をした」という事実をつくるべきだと思うんです。その「事実」をしっかり積み上げていけば、野村さんのレベルではなかったとしても、誰でも「確信」を持つことができる。少なくとも、僕はそう思って、一日一日を大切に生きた結果、営業マンとしてそれなりの結果を残すことができたと思っています。
安藤 それも「事実」だからこそ、説得力がある。
金沢 かつて、長島☆自演乙☆雄一郎というコスプレファイターの取材をさせてもらったことがあります。K-1の初戦を勝って一躍脚光を浴びましたが、そこからボロ負け続き、崖っぷちに追い込まれて、敗戦後には引退を示唆するようなコメントまで出すようになったんです。
文字通り、正念場となる日本トーナメントの朝。自演乙選手からメールが来たんです。「金沢さん、今までありがとうございました。今日はもう、僕は、今までやってきたことを出すだけです」。この文面を読んだ瞬間、「あ、これは勝つな」と思いました。「勝ちます」ではなく、「やってきたことを出すだけです」。このような、「勝ち負け」ではない境地にたどり着いた選手は強いんですよ。案の定、彼は優勝して復活を果たしました。
安藤 おお、素晴らしい話ですね。最後はそこなんですよね。「自信」ではなく「確信」を持つ。「努力した」という事実を積み上げれば、その事実は確かに信じることができる。この「確信」こそが、メンタルを強くして、圧倒的な結果を生み出すのでしょうね。
(第3回につづく)
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