『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』では、どんなチームや企業にも存在する「組織文化」をテーマに、それを知り、変え、そして進化させていくための方法を紹介しています。なぜいま「組織文化」が重要なのか。今回からは本書第一章に収録した原稿を特別に公開していきます。

日本企業が世界で勝つには「らしさ」が最大の武器になるPhoto: AdobeStock

 実はいま、ビジネスの世界でもスポーツの世界でも、組織文化の重要性が認識されはじめています。

 まずは企業について、組織文化の重要性を解説しましょう。

 業績や収益といった成果は、組織を構成する氷山の一角でしかありません。成果が生みだされる背景を知るには、氷山にたとえれば、その水面下に隠れている広大な土台を見極めなければなりません。目に見えない部分を知ることなく、氷山の一角となる成果を高めたり、変えたりすることはできません。

 この氷山の土台の最も深い部分にあるのが組織文化です。

 一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻の楠木建教授は、組織における「文化」を次のように定義しています。

「その組織の人々に共有されている、何が良くて何が悪いか、何が正しくて何が間違っているか、何が好きで何が嫌いかという価値観」

 組織文化は、その組織を構成する人だけに共有される価値観のことです。これをわかりやすく説明するため、楠木教授は対義語として「文明」を挙げています。

「文明は、社会的なコンセンサスとして普遍的に共有される世界共通のモノサシです。一方で組織文化は、企業固有のモノサシです」

 文明はあと戻りすることがありません。

 基本的に、文明は国や地域にかかわらず、同じ方向に進んでいきます。こうした文明のいくつかが、人類の普遍的な価値観として共有されていくことになります。

 たとえば、「決められた時間に遅れてはいけない」という価値観を例にとりましょう。

 文明が発展途上の国では、「約束の時間に遅れてはいけない」という価値観があまり浸透していません。

「私は南アフリカで育ちましたが、アフリカの経済開発にとって重要なのは、文明がどこまで浸透するかということです。現段階では工場が始業する朝9時に出社せよと言っても、なかなか浸透しません。しかし文明が浸透していけば、少しずつ時間を守るようになるはずです」(楠木教授)。

 文明とは、国や地域、経済発展の段階などを問わず、同じ方向へ進んでいく価値観のことです。一方で、文化はその対極にあります。組織文化は企業の中でしか通用しないからです。

「身も蓋もない言い方をすると、組織文化とは好き嫌いにすぎない」と楠木教授は指摘します。

 もちろん、好き嫌いが個人的な価値観に局所化されてしまうと、それは文化とはいいません。そうではなく、複数の人間の集まり、組織やチームの中で共有される好き嫌いやこだわりなどの価値観が組織文化なのです。

 そしてビジネスのシーンでは、この「好き嫌い」や「こだわり」が、年々大きな意味を持つようになっています。