秘儀に云はく。そもそも、一切は陰・陽の和する所の堺を、成就とは知るべし

(そもそも一切の物事は、陰と陽が調和する境の部分に、成功のポイントがある)

 たとえば、夜の能は遅い時間に始まるので陰鬱になりがちである、だからテンポよく明るい能を最初から提供すると、観客の喜びが高まるという。
 
 会議の空気が沈滞して「陰」の状況にあるか、「陽」にあるかを把握することが必要になる。陰を陽に転換し、陽を陰に落ち着かせることができれば、話の説得力が大きく増し、あなたは周囲から千両役者と見られることすらあるのだ。陰鬱な場では明るく快活なトーンで話をして場を活性化させ、ざわついた場では落ち着いた声音を用いればいい。

プレゼンの基本は
「序破急」にあり

 話の中身を効果的にするにはどうすればよいか。どんな順序で何を語るか。この基本戦略は、有名な「序破急」である。

 一切の事に序破急あれば申楽もこれ同じ

(そもそも一切のことには、「序」〈ゆっくり始まり〉、「破」〈拍子が入ってテンポがよくなり〉、「急」〈一気にクライマックスに向けて加速する〉という音楽にたとえられるような構成要素があり、猿楽〈能〉についても例外ではありません)

 そう思って見直してみると、よくできたプレゼンテーションや演劇、映画などにもこのような構成を見ることができる。観客や聞き手が話に引き込まれるような導入の冒頭部分に始まり、興味をそらさない展開があり、「落ち」に向けて、収束していくのである。もちろんそこには一貫したテーマが流れている。

常にベストを尽くす必要はない?
パフォーマーとして勝つための秘策

 世阿弥が活躍していた当時は、「立ち合い」といって他の演者と優劣を競い合った。これに勝たなくてはならない。大事な「試合」で他の流派の演者との勝負に負けてしまうと当人の評価は落ち、流派の立場がなくなってしまう。世阿弥は演者でもあり、流派のトップでもあった。大事な立ち合いに負けることは、絶対に許されなかったのである。

 このような大事な戦いに臨む際、世阿弥は自分で書いた能で戦え、といっている。人の書いたものを演じるのでは、本当の深い意味を理解しつくせないことがある。さらには、自分の得意なところが際立つ構成になっていないかもしれない。自分の特質に合わせた内容を、自分オリジナルで、巧みに表現することが勝つために重要だという。
 
 ビジネスでもここ一番というときには、自分の得意分野に引き付けて話をしたり、自分の得意なことが生かせるように準備したり、手配する工夫が欠かせないだろう。