『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
こんばんは、いつも多様な面で先生の言葉に支えられています。
今回は、大きな選択をする際に、何を基準に意思決定するべきか先生のお考えをうかがいたく、書かせていただきます。
私は社会に出て三年目、いわゆるジョブホッパーで一年毎に職・職場を変えきました。(三年目にして二度転職)一年目と二年目は同現場異業種、今年は二年目と同業種異現場です。
そろそろ腰を据えて長い目で貢献できる・納得できる現場で働きたいという思いもありながら、今年もまた職(場)を変えたいという気持ちが沸いてきてしまっています。現在の職場の不満は大きくは以下のものです。
・職場の体制が社長のワンマンで、自身の意見や考えを持っていても改善するための方策が見えない。無力感がある
・来年度大幅な勤務形態の変更予定にもかかわらず、現時点で見通しも計画もない突貫改革が起きようとしている
・直近の上司が思いつきで仕事をふる、目的がわからない仕事を提案する。報連相を行ってくれない
このような現状で、職を変えるのであれば一年目と同業種のものを考えています。選択すればほぼ確実に職に就くことができるものです。
ここまで毎年、合理性ではなく、自分の感情ややりたいことに重きをおいて職を選んできましたが、ここに来てこのような暮らし方に不安を抱いてもいます。
再度職を変えることにも、
・今年の職の紹介者への説明
・今年の転職を反対していた前職の方々へのご報告
・定職に就かないことの不安と自己嫌悪
などがストッパーになり、決断が下せないでいます。
どのように選択を模索すべきでしょうか。お知恵をお貸しくだされば幸いです。
いっそ起業してみると、上司がなぜ理不尽かわかります
[読書猿の回答]
正直に申し上げると意思決定以前の話だと思うのですが、どうしてもということであれば、選択肢を増やされてはいかがでしょうか。「起業する」という選択肢をです。
大抵の経営者はワンマンであり、多くの上司は思いつきで行動します。あなたの不満は、あなた自身が理想の経営者となり理想の職場を作り上げない限り解消しないと思います。
幸いにして、あなたは上司や経営者よりも優秀であり(少なくともそう自負しておられ)、しかも業界は、ジョブホッパーのあなたが望めがほぼ確実に職につけるほど、人材を必要としています。あなたが起業し失敗しても、まだ同業で職を求めることが可能かもしれません。
さて、ここからが本題ですが、様々な人格・能力を持つ経営者や上司が、ワンマン/思いつきといったお決まりの修飾語で表現できる言行をとってしまうのは、これらの悪癖が彼らの能力や人格に由来するものではなく、構造的なものであるからです。
端的に言えば、彼らの言行が理不尽なのは、彼ら自身が(処理できるキャパシティ以上に)理不尽な状況に置かれているからです。
同情する必要はありませんが、経営者や上司の言行をより「大きな絵」の中で理解できた方が、彼らの理不尽な言行に対して予測が立てられ準備することもでき、自分の立場とメンタルを守ることができると思います。
経営者は、どれほど揺るぎないビジョンを掲げ初志貫徹できたとしても、会社をつぶしてしまってはどうしようもありません。
中間管理職は、どれほど部下の自尊心を慰撫したとしても、上からの定見なき指示と現場の不満の間でバランスを取れないと自分自身が潰れてしまいます。
いずれにしても、彼らが一番に果たさなくてはならない任務は、あなたの承認欲求を満たすことではありません。
以上のようなことを理解する一番の近道は、彼らと同じ境遇に自分の身を置くことです。ということで解答の最初に戻ります。