「病気を治す」から
「健康の維持」へシフト

――そもそも青森が短命県である原因は何でしょうか。また、短命県からの脱却に向けて、このビッグデータの解析結果をどう活かしていくのでしょうか。

 長寿県である長野県が行っている健康のための施策は、青森県でもひと通り取り組んでいますし、長野県に比べて医療レベルが低いということもありません。では、青森県が短命県である原因は何か。研究から見えてきた両県の違いは塩分の摂取量や、喫煙率・飲酒率の高さでした。あたり前すぎる原因に、「何もビッグデータを取らなくても」と思われがちですが、数値化されて導き出された結論は、その後の対策にブレが生じる余地をなくします。青森県に必要なのは、身体に悪いとわかっていてもやめられない習慣を持つ人たちに向けた、健康でいるための知識と知恵、いわゆるヘルスリテラシーの周知と指導です。

 認知症健診でもお話ししましたが、これまでの健康ビッグデータの網羅的な解析によって予測から予防へという道筋が見えてきます。いままでの病気を治す医療から、今後は予防という流れになるでしょう。適切な健診とそれを基にした健康への知識を伝えること。医師は将来的には健康コンサルタントのような役割をより強く求められるようになるのではないでしょうか。

 プロジェクトのビッグデータは健康データであるため、今後「何が病気の原因か」よりも「何(どのようなファクター)が健康維持に影響しているか」が読み取れるようになるはずです。さらに将来は人それぞれにカスタマイズした、健康であるための重要な指標が提供できると思います。

 岩木プロジェクトの陣頭指揮を執る中路重之教授(弘前大学大学院医学研究科/同大学COI拠点研究統括)も「医者は病気を診るよりも、いかに病気にさせないかにシフトすべきだ」とおっしゃっています。ただ、治療から予防へのシフトには医療を取り巻く制度や社会の仕組み、何よりも医師の意識を変えることが必要です。