産・学・官・民をつなぐ
大学の中立性
――ビッグデータがより効果を発揮するために、ビッグデータ同士の連携に注目が集まっています。
九州大学には「久山町研究」があります。福岡市に隣接した糟屋郡久山町の全住民約8000人に対して、1961年から半世紀以上にわたり脳卒中や心血管疾患などの免疫学調査を行っているものです。弘前大学COIは九州大学とも連携していて、岩木プロジェクトのデータと久山町のデータの統合的な解析を行っています。
久山町のデータによると、握力が認知症の指標になるという研究結果が出ています。しかし、それだけでは握力の低下と認知機能の低下が関連することまでしかわからず、その間をつなぐ要因は解明できませんでした。しかし、岩木プロジェクトのデータと合わせて分析した結果、握力の低下そのものが全身の体力低下を表していることが見えてきました。いままで認知症をスクリーニングするには、血中アミロイドβ検査などを実施しなければならず、相当な時間とコストがかかりましたが、久山と岩木のデータを重ねることで、ずっと簡便なスクリーニングで、初期段階での認知症予測が可能なのではないかと研究を進めています。
――ビッグデータの解析という点ではどのような取り組みが行われていますか。
ビッグデータの解析では、東京大学・京都大学などの医学系の統計学に強い精鋭たちに加わってもらっています。特に最近では文部科学省が大学間共同連携を促進しており、アカデミックなつながりをより強めています。ただ統計学のスペシャリストは国内にもたくさんいますが、医療や健康の分野に強い人となると限られてしまいます。そういう意味で京都大学の奥野恭史教授は、スーパーコンピュータ「京」を使った医療ビッグデータの解析やシミュレーションに実績がある方ですので、解析チームのリーダーとしてプロジェクトの大きな力となっています。ほかにも東京大学(生物統計学)の松山裕教授やゲノムデータ解析等で実績のある同大学医科学研究所の井元清哉教授、名古屋大学医学部附属病院の平川晃弘講師など、国内を代表する錚々たるメンバーに参加してもらっています。
こうした企業と大学、公的機関の連携が可能になったのは、弘前大学COIが網羅的なデータを持っているためです。いまでは、弘前大学COIが中心的な役割を担いながらCOI全体で連携を進める枠組みがつくられました。
また研究によって生まれた成果を、社会実装しようとする場合、大学はその中核を担える可能性があります。研究の成果を社会に役立てようとしても、公的な政策だけではカバーし切れない部分がありますし、かといって民間企業だけでは、なかなか社会に広まらない。公的機関と民間企業の強みを、大学がニュートラルな立場で取りまとめることで、健康増進の効果的なパッケージが成り立つと考えています。