クックパッドコーポレートブランディング部本部長で、『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』著者の小竹貴子さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について「40代の今出会えてよかった本」と熱くその魅力を語っています。
今回、この二人の対談が実現。ともに起業、スタートアップにかかわった経験から「バリバリ働いてきた人が限界を超えないためにどう休めばいいか」について語ってもらいました。(取材・構成/杉本透子)

発達障害の僕が発見した「ADHD傾向のある人がトラブルに強い」納得の理由

ハプニングがないと物足りない

借金玉 前回の記事では休むためのハックをご提案したのですが、お話を伺う限り、小竹さんは本質的には休めないタイプでいらっしゃるかなと思います。僕のハック程度は突き抜けてしまうタイプかなと(笑)。

 でも、ある意味能力なんですよ。ADHDの性向として“刺激に弱い”“すぐに気が取られる”というのがありますが、これは裏を返せばやばいことが起きたときにすぐ戦闘モードに入れるということでもあります。小竹さんも突発的なトラブルに強いタイプではないですか?

小竹貴子(以下、小竹) そうかもしれません。会社の立ち上げ期は答えがない中で結果を出さなきゃいけないので、何かあったら「とりあえず沈静化してこい」と言われて突撃というところはありました。今もハプニングがまったくないと「何かないかな?」と思ってしまったり。夜中に海外の上司から呼び出されてもちょっとうれしくなっている自分がいます。

借金玉 僕もトラブル対応は得意な方ですね。ADHD傾向のある人には、ヤバイと思った時とりあえず体が動くみたいな能力があったりするので。突発的なトラブルが次から次へと降り注ぐような状況にはわりと強い。逆に言えば、刺激がないと動かないスリルジャンキーになりがちなんですけれど……。

 会社立ち上げの時期といえばトラブルに次ぐトラブルだったと思いますが、対応のコツみたいなものってありますか?

小竹 何かトラブルが起きたら、゛感情的なトラブル“と゛根本的なトラブル”は切り分けて考えるようにしています。

 例えば何かのシステム障害が起きて炎上した場合、怒っている方の感情の部分をケアすることと、根本的な問題解決はきっちり分けなきゃいけない。感情的なトラブルの場合は、とにかく初動のスピード感が大事です。

借金玉 感情的なトラブル! いわゆる“感情的鎮火”を素早くやる話ですよね。これ、僕は最初の起業の時できませんでした。「問題解決」しか見えてなくて「感情」がわかってなかったんですね。その後、転職先の上司に「トラブルが起きたときビビったら動けなくなるから、状況を把握したら深く考える前にまず走って行け。待たせれば待たせるほどこじれるぞ」と言われました。結局、多くのトラブルって素早く出向いて頭を下げ、感情面の問題をクリアすればなんとでもなるんですよね。30歳を過ぎるまで、僕はこれがわからなかった……。

小竹 実際に顔を合わせると意外とそこまで攻撃的じゃないっていうこともよくありますよね。それと本当に自分達が悪かったかどうかもちゃんと判断しないといけないと思います。悪いことをしてないのに謝ってしまって余計に炎上することがあるので。最近だとSNSでの炎上で、悪いことをしてないのに謝って燃えるのをよく見かけますが、それは気をつけないといけないなと。

借金玉 悪くないのに謝るとそのせいで顧客の信用を落とすこともありますし、初動で謝るのか謝らないのかの判断は本当に難しいですよね。衝動的に動いて間違った苦い記憶がたくさんあります。ただ、それでもダラダラ引き延ばしてこじらせるよりはずっといい。現場に行って話を聞かないとわからない場合だって多いですしね。

小竹 相手が感情的になっていることばかりにフォーカスすると、自分達のミスがうやむやになってしまう怖さもあります。人の感情面に対応しつつ、自分達の間違いもちゃんとセットで解決していくというのは心がけていますね。

借金玉 チームを抱えてマネジメントをやりながら、同時にプレイヤーとしても動いている。大変なお仕事だ……。

発達障害の僕が発見した「ADHD傾向のある人がトラブルに強い」納得の理由小竹貴子(こたけ・たかこ)
クックパッド株式会社Evangelist、コーポレートブランディング部本部長
1972年石川県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオでWEBディレクターを経験後、2004年有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。広告主とユーザーのwin-winを叶えた全く新しいレシピコンテストを生み出す。2006年編集部門長就任、2008年執行役就任。2010年、日経ウーマンオブザイヤー2011受賞。2012年、クックパッド株式会社を退社、独立。2016年4月クックパッドに復職、現在に至る。また個人活動として料理教室なども開催している。シンプルでおいしく、しかも手順がとても簡単なレシピが大人気で、生徒から「料理のハードルが低くなった」「毎日料理が楽しいと感じられるようになるなんて」の声多数。日経BPから上梓した『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』が現在7刷のロングヒットに。

体はダメージを受けている

借金玉  スタートアップの頃はハプニングが日常的に起きるので集中力が保ちやすいと思いますが、組織が大きくなって状況が落ち着いてくると、逆に仕事が捗らなくなってきたりしませんか?

 僕はうつで寝込んでいるときに、たまたまTwitterで腹立たしいことがあって「わーっ」っと怒ったりすると元気が出るし、「これはやばい!」みたいなトラブルが起きると仕事に集中できるところがあります。知人からは「借金玉はTwitterで色々揉めているうちは死なないから大丈夫」とトラブルを生存のバロメーターにされています。お恥ずかしながら、未だに衝動性で動いている人生です。トラブルとスリルがないと動きが悪くなってくる。

小竹 ちょっとわかります、私はTwitterではケンカしないですけど(笑)。ただ、トラブル対応が終わったあとは燃え尽きるんですけどね。それなりに体にきついダメージを負っているので。私の場合だとよく頭に五百円ハゲができます。

借金玉 そうそう。ストレスを受けてないわけじゃないんですよね。大変なことになってるうちは体が動くけど、逆に鎮静化してちょっと休める余裕が出ると一気にダメージがきたりする。だから短期的にはトラブルで調子が上がっても、長期的にはちゃんと休まないといけない。

 このあたりは僕にとっても未だに課題です。他の人が尻ごみする問題に向かって衝動的に突っ込んで行ける特性は強みでもあるけれど、コントロールはしないと必ずどこかで倒れてしまいますね。

発達障害の僕が発見した「ADHD傾向のある人がトラブルに強い」納得の理由借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』