発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
今回は、本書でも語られている「発達障害に向いている仕事、破滅する仕事」について、借金玉さんに書き下ろしてもらいました。(イラスト:伊藤ハムスター)。

GDP
Photo: Adobe Stock

発達障害は起業に向いている?

 僕は、26歳で起業しました。業種は飲食から始めて貿易業に進出し、会社の人員が10人を越えてくるくらいまで成長したところで、色々な困ったことが起きて、事業は破綻しました。間違いなく、人生で一番苦しい経験だったと思います。

 発達障害者が組織でやっていくのは難しい、だから起業や独立をすればいい。そういう話は、わりと巷間で囁かれています。

 実際のところ、成功している企業経営者に発達障害傾向を持つ人が全くいないかといえば、確かに僕の出会ってきた人たちについて考えると、「それなりにたくさん存在する」とは思います。

「経営者は発達障害者ばかり」みたいな神話もありますが、僕の経験を踏まえればそこまでのものではなく、ただ経営者の中に「発達障害を疑ってもいい気がするな」と思える人がそれなりの数存在する感じです。強烈なキャラクターと能力の凹凸を併せ持つ経営者ですね。そういう人は概してとても目立つので、発達障害者は経営に向く、みたいな神話が生まれたのだと思います。

 また、創業からそれほど時間のたっていないベンチャー企業や、僕自身も興したようなスタートアップ企業は、人材の能力に凹凸があってもそんなことを気にしていられない。細かいことはどうでもいい、役に立つならなんだって使う、そういう土壌があります。必然的に、そういう場所には発達障害傾向を持った人たちが増えてきます。これは単純に生き残りやすいからですね。

 そういう場所で、能力に大きな欠損を抱えつつもそれを補って余りある異能を発揮して社会的成功を収める発達障害者は結構たくさんいます。

従業員の方がラクなことも多い

 その一方で、起業や独立といった方法で発達障害に由来する問題が一時に解決されるかといえば、そんなことがあるはずがありません。

 もちろん、会社を興してトップの立場になれば人を雇って仕事を任せることが出来るようになりますが、それでも自分でこなさなければならない仕事量が膨大になることは避けがたい。更に言えば、「他人に仕事を任せる」ことそのものが非常に難しい技能です。考えてみれば、人を雇う企業は基本的に「お金を払って誰かに任せる」ことで利益を出しているわけですから。こんな根源的かつ究極的な技能がそう簡単に身に付くわけがありません。

「従業員」であれば叱咤される程度で済んだ問題が、独立後は「損失」や「信用の毀損」といった致命的な形で迫ってくることにもなります。起業をすればわかりますが、「忘れていた」「うっかりした」ということ一つでとんでもない損失が出ることはよくあるのです。何度となくやらかしました。ADHD的な欠陥は、組織の最高責任者にとってもかなり厳しいと言わざるを得ません。

 人を雇うにせよ、雇った人間をマネージメントする業務は自分で行うしかありません。この点でも、発達障害に由来する能力的欠損はやはり大きな弱点になります。対人折衝能力、あるいは組織の人間関係を維持していく能力。これは、本当に吐き気がするほど必要なものです。「僕のうっかりミスを防いでくれる事務スタッフを一人雇って育てる」だけでも本当に難しいのが人を使うことの現実です。

 また、フリーランスとして一人で請負業務を行うといったシンプルな独立創業のやり方であっても、結局のところクライアントや外注先との折衝といった業務は避けられません。プログラマであろうがフリーライターであろうが、「一つの作業をやっていればそれで大丈夫」という状態にはまずならないのです。とても残念なことですが、起業をしてもフリーになっても楽園はどこにもないと思います。

やりたいならやればいい。失敗してもいい

 「組織がだめなら起業すればいい」と気楽に言う人は結構います。これは、ジョブズやエジソンが発達障害であったというような(実はたいした根拠のない)伝説に尾ひれがついたものに過ぎないでしょう。

 「起業する」のも「組織の中で生き延びる」のもその本質に大きな差はない、僕はそのように考えています。状況に合わせ欠損する能力を何らかの手段で補って、生き延びていく。それが本質です。「経営者」であろうと「従業員」であろうと、そこに差はありません。経営者やフリーランスの場合は問題に対応する選択肢は組織に勤める場合より増えるかもしれませんが、一方で責任やリスクも避けがたく上昇します。

 もし、あなたが起業を志しているのならば、僕は止めません。やりたいことがあるならばやった方が良いと思います。しかし、「起業という選択肢が全ての問題を解決してくれる」そのようなことは絶対にない。これだけは覚えておいてください。結局、どんな道を行くにせよ、自分の抱えた問題を分析し、解決へ向かう方法論を模索していく以外に手はないのです。

 それでも、あなたが起業やフリーランスを志すならそれは素晴らしいことです。我々は何度も転びながら「死に覚え」ていくしかありません。物事の成否によらず経験が得られるだけで、それは素晴らしいことなのです。僕も会社をコカして5年近く経った今だからこそ言えることですが……。

 何もかも解決する魔法の選択肢ではなく、自分に合った働き方や生き方を模索するための挑戦として起業や独立を考えましょう。その先には避けがたく様々な出来事が起きると思いますが、生き残りさえすればその経験はあなたに多くを学ばせてくれます。

 死んだら、だめですよ。