しかし、現実的にパレスチナ自治政府のみで確保できるワクチン量には限りがある。直近ではロシアのSputnik-5など、イスラエル以外からのワクチン供給も始まっているが、パレスチナ人全員分を賄える量からはほど遠い。イスラエル政府は、遅まきながらイスラエル国内で労働するパレスチナ人を中心にワクチン接種を進めているが、国際世論からはその消極的な対応策への批判が相次いでいる。

 また、ユダヤ教の信者の中にはワクチン接種を拒否する人々も一定数いる。科学を否定する見地から、ワクチンの接種に対して否定的な見解を示すラビ(ユダヤ教高僧)もいて、それに影響されて接種を拒む人々が一定数いる。

 さらに、ごく一部ではあるが、ヴィーガン(完全菜食主義者)やその他の信条的な理由で接種を拒否する人々も少なくない。ワクチン開発で動物実験がなされていることに関して、動物の権利を主張するヴィーガニズム実践者はワクチン接種に否定的だ(もっとも、ヴィーガン協会は「ヴィーガニズムの実践と同様に他の人の健康に配慮すべき」という前置きをした上で、ワクチンを接種するかは各個人の判断だという声明も出している)。また、ワクチンが身体に影響を与えるという観点で、ワクチン接種を拒む人も存在する。

浮き上がる
「国内外の活断層」

 冒頭で、コロナウイルスの問題が「地殻変動を引き起こした」と記載をしたが、それが残したものは「国家の枠組み」における「内外での亀裂」である。

 まず、国家の枠組みの中という意味では、多層な社会構造を持つイスラエルの中心に「大きな断層」を作り上げてしまった。

 国民皆兵の強い軍隊のイメージに反して、イスラエルの国内は決して一枚岩ではない。ユダヤ教、イスラム教、キリスト教、その他の諸宗教ごとの違いはしばしば例に挙げられているが、それだけでなく、ユダヤ教内での宗教的な温度感の違い(ユダヤ教に熱心な超正統派から、戒律を守らない世俗派まで分かれている)、出身地の違い(アシュケナジーと呼ばれる東欧系のユダヤ人、セファルディムと呼ばれる北アフリカ・イベリア半島出身のユダヤ人、ミズラヒームと呼ばれるアラブ諸国出身のユダヤ人など)など、幅広い多様性を擁する国なのだ。加えて、ヴィーガンなど新しい考え方を持つ人々もいる。

 集団免疫の獲得のためには、望ましくは社会の構成員のできるだけ多くの人がワクチン接種をすることが望ましいとされるが、上記の通りその枠に「収まらない人々」が出てきたのである。