利益は、将来のリスクや特別な支出の備え

林教授 コロナウイルスを思い出してごらん。会社はいつ何時危機に襲われるかもしれないんだ。そして、いつの間にか会社存続の危機に直面するかもしれない。いかなる危機に直面しても、耐えられるだけの蓄えが必要なのだ。つまり、預金だよ。預金は余剰ではなく、将来の支出の備えなんだ。

カノン たしかにそうですね。

林教授 蓄える目的は、いつ起こるかもしれない危機に備えるためだけではない。

カノン なんですか?

林教授 事業規模を拡大したり、あるいは新規の事業を始めるには巨額の資金が必要になる。将来の投資のためにも、お金は意識して貯蓄しなくてはならないのだよ。

カノン 先生がおっしゃりたいことがわかりました。ビジネスにおいて、お金が余るということはあり得ないということですね。

林教授 そういうことだね。

カノン 余ったからといって使い切ってしまうなんて言語道断ですね。

林教授 実は、それがドラッカーのいう「利益は幻想」の本当の意味なんだ。ここでいう利益は「期間利益」ではなく営業キャッシュフローのことだと考えて欲しい。利益は、将来のリスクや特別な支出の備えであって、決して余剰ではない。つまり、利益は幻想に過ぎなく、現金が増えたからといって使い切ってはいけないということだ。高級車を買うなんて言語道断だね。

カノン なんか、すごく納得しました。

林 總(はやし・あつむ)
公認会計士、税理士
明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。