窒化ガリウムがもたらす
省エネルギー社会

――窒化ガリウムの半導体をすべての電子回路に使えば、飛躍的にエネルギー効率が上がるわけですね。

 現在は、シリコントランジスタの半導体を電子回路に使うのが一般的ですが、それは常に5%程度のエネルギー損失があります。窒化ガリウムによるパワーデバイスなら、この損失量を0.5%にまで低減できます。

 試算では、発電量として10%を削減することになります。これとは別に、電気の光源をすべてLEDに置き換えることによって、7%の電力を削減できますので、窒化ガリウムとしては、17%の省電力化に貢献できることになります。

――水の供給からエネルギーの節減まで、まさに現在の社会課題の解決に資するものですね。

 窒化ガリウムの実力はまだまだこんなものではありません(笑)。無線給電、無線通信にも使えるのです。

 たとえば、現在ドローンや電気自動車は充電しなければ使えませんが、この充電の際にプラグをつけずに無線で給電できる仕組みを開発中です。高速でかつ低損失でスイッチング動作を可能とする窒化ガリウムの半導体の特性によって、有線による電源供給と同等の電力効率を実現することができるのです。

 無線通信では、大量のデータを高速で通信する際に、信号を増幅する窒化ガリウムを使った高周波デバイスが力を発揮します。

 これだけ使われる場所が広がると、ガリウムが枯渇するのではないかと心配になります。

 リサイクルの仕組みを構築することで対応可能です。当初から製品化と同時にリサイクル設計を組み込むようにしています。今後も、どのようにリサイクルするかという仕組みを考えながら、製品開発を進めることが不可欠です。実際に、現在の日本におけるガリウムのリサイクル率は世界一です。

――窒化ガリウム関連の技術は大きく社会に貢献できるものですが、社会で使える状態にする「社会実装」には多くのハードルがあります。

 まさにそれがいちばん大きな問題です。光源をLEDに置き換えたり、窒化ガリウムの半導体をすべての電子回路に使えば、エネルギー消費量は劇的に減らせますが、実際に一般社会で通常の光源や半導体に置き換えて使ってもらわない限り、それは絵に描いた餅にすぎません。すなわち一般社会に普及していかなければまったく意味がありません。

 一般社会で使ってもらってこその貢献であり、使ってもらうための技術開発でなければなりません。「理論上はこんなにいいんですよ」と机上で絵を描くことはできますが、実際に使えるいいものを汗水たらしてつくらなくてはだめです。私たちがしてきたのも、そういった仕事の積み重ねだと思います。