社会実装には価格低減と
周知させるための工夫が必要
――こうした技術の社会実装が進むかどうかは、どういったことがポイントになるのでしょうか。
いいものを安くつくる技術を確立することがまず重要です。いいものであっても価格競争力がなければ普及しません。
そして、いいものだと一般にわかってもらうための努力を怠らないこと。その一環でもありますが、名古屋大学ではエネルギー効率を最適化したクリーンルームを2018年3月から設置予定です。共同研究も同年12月から可能になります(編集注:エネルギー変換エレクトロニクス実験施設「C-TEFs」として2018年7月に開所)。まずここで使ってもらって、その有効性をアピールしていきたいと思っています。
もう一つ、難しいのは製品によって、社会実装の方法がまったく違うことです。たとえば、青色LEDは実際に設置したら光が暗かったとしても、大きな事故を起こすという心配はありません。しかし、電気機器に使うパワーデバイスは100%の信頼性が要求されます。電気自動車に乗せるパワーデバイスに欠陥があれば、大変な事故を引き起こします。もし壊れたとしても安全な壊れ方をするといった制御性があることが不可欠なのです。
――新たな技術を開発すること以上に、社会実装するための開発資金が必要なケースもありそうですね。
ある材料を開発し、それがよい製品になりそうな適切なタイミングで資金的なサポートを受ける仕組みをうまく回せるといいと思っています。
水を殺菌する紫外線LEDはとてもうまくいった例です。最初の構想段階で日本学術振興会から科学研究費(科研費)が出たのですが、それでも予算が足りず、装置メーカーの人が安く装置を提供してくれたり、部品を提供してくれたりといったおかげで、第一段階の開発を完了することができました。
次の段階では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のサポートがあって、最終製品まで大学で試すことができました。そこまで進められたおかげで民間の資金を募ることができたのです。最後の段階においては日本政策投資銀行などの出資によってベンチャーがつくられ、製品化が可能になりました。
さきほども申し上げたように、社会課題の解決につながるような優れた技術や製品は、一般に広めるために大量生産の技術が必要となりますが、そこにたどり着くまでは技術開発として多くのステップがあります。もちろん研究は幅広く行うべきですが、いいものになりそうな場合には、それに集中して、国や企業でサポートすることが大切です。
開発する側からいえば、科研費助成やNEDOなど、すでにある仕組みをうまく活用すること、そして、最終製品化の予算をいかに獲得するかが勝負になります。水の殺菌器は我々と出資会社のニーズが合致したのですが、最終製品のイメージを出資者と共有していたからこそできたことでもあります。何だかよくわからないものにはお金は出ませんから(笑)。
また、名古屋大学では現在クラウドファンディングの利用にも取り組んでいます。こうした取り組みを進めるにあたっても、寄付を募るためには、だれのための、どういう技術かということを具体的にわかる形で説明し、理解を得るための努力が欠かせません。