日本の強みを活かして
開発スピードを加速
1983年、名古屋大学工学部卒業。1988年、名古屋大学大学院工学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。1989年、工学博士号取得。学生時代から赤?研究室で青色発光ダイオード(LED)の研究に従事。1998年名城大学助教授を経て、2002年、名城大学教授。2010年に名古屋大学教授。専門分野は電子・電気材料工学。2002年に赤?勇氏、中村修二氏とともに武田賞、2014年11月に文化勲章、2014年12月に赤﨑勇氏、中村修二氏とともにノーベル物理学賞を受賞。
――科研費やNEDOは開発期限があります。一般企業の出資ならなおのこと、製品化までのスピードが問われます。
何かというとすぐ結果を出せといわれますが、青色LEDは最初の論文が出てから製品化まで四半世紀かかっていることも忘れないでください(笑)。最近は大学の運営費交付金も抑えられており、憂慮しています。
――開発のスピードを速めるのに、アメリカで先進的に行われているマテリアルズ・インフォマティクス(MI)のような手法はやはり有効なのでしょうか。
いままで通りの研究だと時間がかかることでも、先端テクノロジーをうまく使って、短縮することができます。アメリカはこの分野では大きく進んでいます。
日本とアメリカの対比でいうと、アメリカは計算科学に優れていますが、日本はノウハウの蓄積に優れています。MIはどんなデータを集め、どのように活用するかが問題です。成功したものだけでなく失敗した研究のデータも含めて運用することが重要なのです。またセンシングといわれる、センサーで計測してさまざまな情報を数値化し、それを応用する技術などに日本は長けています。
私たちも青色LEDの開発ではいろいろ苦労しましたが、こういう開発方法ならもっと早くできるのではないか、というアイデアはいろいろありました。そういったことを、MIを活用することで実現できるといいですね。
最近はAIの活用範囲も広がっていますが、材料の組成部分だけでなく、実際にものをつくるプロセス、パッケージング、システム運用などでも、AIの活用の可能性があると思います。
たとえば、実際に結晶をつくらなくても結晶の中身がわかる、あるいは回路をこう設計すると、もっとコンパクトでいいよ、という答えをAIが出してくれるといったことです。
窒化ガリウムの開発でも、設計、製造、方法までを含めて機械学習をスタートさせています。
――日本では、実際にものをつくるプロセスの部分の知識が企業内に隠匿されていて、なかなか社会的なノウハウになりにくいという話もあります。
たしかに、ものづくりの肝になる部分は企業が重要なデータを持っています。こうしたデータをいかに取り込めるかが、MIを有効活用することや、次代の製造技術を構築するための成否の分かれ目です。
いま、名古屋大学では企業とコンソーシアムを組んでいます。企業の担当者に教授になってもらう形で企業を巻き込み、研究に参加してもらっており、活発な議論を行っています。
過去に、日本は半導体の製造技術でリードしていたものの、コモディティ化によって、結局勝ち残ることはできませんでした。その二の舞いにならないよう、窒化ガリウム素材の汎用化、モジュール化を主導することをコンソーシアムの使命として取り組んでいます。
――研究開発では他国との連携も重要になってきますね。先生の研究室ではどのような取り組みが行われていますか。
国際連携は積極的に行っていますね。国際連携の相手は中国、ロシア、イタリア、フランスなど多様です。日本はものづくり、他国は評価技術など、それぞれの国が得意なところを分担する形で進めています。科学技術振興機構や日本学術振興会がイニシアティブを取って、共同研究での国際連携の仕組みを整えており、世界的にも貢献しています。
これからは、他分野との連携も重要になってきます。名古屋大学でも新しく文系、理系を統合した情報学部、情報学研究科を設立するなど、取り組みを始めています。
窒化ガリウムの研究においても、必要な情報を共通化し、国や世代、企業と大学の垣根を超えて使えるようにし、窒化ガリウムをさらに社会に役立てられるよう研究を続けます。