兄弟姉妹が遺伝的に異なっている主な理由

 誤り率が高すぎれば、ゲノムによって蓄えられた情報が劣化して意味がなくなってしまうし、誤りが少なすぎると、進化による変化の可能性が低くなってしまう。長期的に見れば、最も成功を収める種は、不変と変化との絶妙なバランスを保てる種ということになる。

 複雑な真核生物では、有性生殖のプロセス中にさらなる多様性が生まれる。「減数分裂」と呼ばれる過程で作られる生殖細胞(胚細胞のこと。動物では精子細胞と卵細胞、花を咲かせる植物では花粉と胚珠)を作り出す細胞分裂の最中に、染色体の一部が「シャッフル」されるんだ。

 これが、兄弟姉妹が遺伝的に異なっている主な理由だ。両親の遺伝子が一組のトランプだとすると、兄弟姉妹には、異なる遺伝子の「手札」が配られる。

 他の多くの生物は、別々の個体間で、DNA配列を直接交換して変異をもたらす。これは、細菌のような単純な生物によく見られる。細菌は、遺伝子を互いに交換できるだけでなく、もっと複雑な生物とも交換できる。

 このプロセスは遺伝子の「水平移動」と呼ばれている。抗生物質に耐性を持つ特定の細菌を作る遺伝子が、細菌集団全体、さらには別の種から他の種へと、急速に広まる理由の一つがこれだ。遺伝子の水平移動は、系統の進化の過程をたどりにくくする。遺伝子が、生命の樹の一つの枝からもう一つの枝へ受け継がれることもあるからだ。

 遺伝子の変異する原因が何であろうと、進化を加速させるためには、変異後の複製においても変異が持続し、あらゆる方向性において変異した生命体の集団を作り出さねばならない。

 その変異が、病気に対する抵抗性や、配偶者を惹きつける魅力や、食べ物の許容範囲や、その他さまざまな特徴における僅かな違いであろうと。その後、自然淘汰が、有害な変異と有益な変異をふるいにかけるのだ。

(本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)

☆好評連載、関連記事
地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論
20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相