バイデン政権が前代未聞の巨額財政出動に動いている。3月12日に200兆円規模の「大型追加経済対策」を成立させたうえに、3月31日には、さらに200兆円超を投じる「成長戦略」も発表。直近まで支配的だった緊縮財政から、一気に積極財政へと舵を切ろうとしている。そして、その論拠は、新型コロナウィルスと中国という脅威に対抗する「戦争」である。「まず戦争を戦うことを考えよ。どう戦費を調達するかを考えるのは、その次だ」と、リベラルな経済学者もそれを支持。米国では「経済政策の静かな革命」が確実に進んでいる。日本はどうするのか? 決断に残された時間は少ない。(評論家・中野剛志)

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アメリカで進んでいる「経済政策の静かな革命」

 3月12日、バイデン政権は、「米国救済計画(American Rescue Plan)」と称する1.9兆ドル(約200兆円)の大型追加経済対策を成立させた。これは、20年3~12月に発動された経済対策と合わせると米国の名目GDPのおよそ3割(約5.8兆ドル)に匹敵する。

 それにもかかわらず、バイデン大統領は、3月31日に、第二弾の経済対策を発表した。第一弾が緊急的な新型コロナウイルス対策であったのに対し、第二弾は、成長戦略としての性格が前面に出ている。

 第二弾の経済対策は、インフラ投資や研究開発投資に8年間で約2兆ドルを投じる「米国雇用計画(American Jobs Plan)」に加えて、人的インフラへの投資を中心とする計画を予定しているという。また、法人税の増税や多国籍企業への課税の強化など、格差是正を念頭に置いた税制改正も計画されている。

 この「米国雇用計画」等については、当然のことながら、今後、共和党の反発が見込まれることから、この通りに成立するかどうかは分からない。

 しかし、第一弾の「米国救済計画」は、かねてより積極財政を説いていたローレンス・サマーズですらたじろいだほどの巨額の支出規模であったにもかかわらず、成立した。その上、さらなる追加の大規模公共投資等が発表されたのである。これは、米国の政策判断に革命的な変化が起きていることを示唆していると言えるだろう。

 世界恐慌以来最悪の金融危機と言われたリーマン・ショックの時ですら、経済対策の規模は08~09年で1.5兆ドル程度に過ぎず、危機の大きさに比して不十分な財政出動しか実現しなかった。積極財政に反対する国内勢力に抗しきれなかったからである。

 そう考えると、バイデン政権の巨額財政出動は、確かに、「経済政策の静かな革命」と呼ぶにふさわしい画期的なものである。

新型コロナウィルスとの戦いは「戦争」である

 では、なぜリーマン・ショックでも実現しなかった「経済政策の静かな革命」が、今回は起きようとしているのか。積極財政に反対する勢力の抵抗を、どのようにして押し切ったのか。

 これに関して、筆者は、2016年に発表した『富国と強兵:地政経済学序説』の中で、経済政策の革命は、地政学的な要因によって引き起こされるという仮説を提唱した。

 例えば、20世紀前半のいわゆる「ケインズ革命」は、二つの世界大戦とその後の冷戦によって、巨額の財政出動や政府による経済管理が正当化されたことが大きな要因となっている。

 逆に、1970年代以降に起きた、ケインズ主義の後退と新自由主義の台頭は、冷戦の緊張緩和及び終結、そしてグローバルな総力戦の可能性の低下によって、積極財政を正当化する論理を失ったことと深く関係している。

 この仮説を現在に当てはめるならば、米国を積極財政へと転換させるに十分な地政学的な脅威の存在が、二つ考えられる。

 その一つは、新型コロナウイルスである。

 もちろん、ウイルスは地政学的な脅威ではない。しかし、各国の指導者たちは、新型コロナウイルス対策を国民に訴えるにあたり、「戦争」のメタファーを用いたのである。

 政治指導者は、国民に新型コロナウイルスの脅威を周知し、ロックダウンなど、国民に犠牲を強いなければならない。また、マスクの着用やソーシャル・ディスタンスなどの行動変容を強く促す必要もある。さらに、国民には団結や忍耐を求めなければならず、政治指導者として犠牲者への哀悼や苦境にある国民への共感を示す必要もある。