人事大激変!第4回Photo:Feodora Chiosea/gettyimages

人事の領域に科学的手法を取り入れる最先端人事部が激増している。評価・給料の決め手が公平で客観的なものになればなるほど、働き手にも「生産性アップ」という覚悟を強いることになる。特集「人事大激変!あなたの評価・給料が危ない」の第4回では、三つのケースを通じて「最先端人事」をご紹介しよう。

「週刊ダイヤモンド」2019年5月11日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの

【Case 1】リクルート、ホンダ、セプテーニ
人事のプロや経営者が絶賛のチーム理論

 人事のプロや経営者の間で「掛け値なしにすごい!」と評判のチームビルディング理論がある。

 FFS(Five Factors & Stress)理論は、個性を決定する「五つの因子」と「ストレスの強弱」をスコア化することで人と人との相性を測定し、生産性を上げる最適チームを編成する際の土台とする考え方だ。リクルートやホンダの研究所など大手企業を中心に800社以上の利用実績がある。

 その中でも、この理論を深く理解し、採用から育成、組織の活性化に至るまで、あらゆる人事領域に科学的手法を持ち込んでいるのが、ネット広告のセプテーニ・ホールディングスだ。

 きっかけは、米メジャーリーグの弱小球団が統計データ分析で常勝球団へ生まれ変わる過程を描いたノンフィクション『マネー・ボール』(2003年)だ。当時の社長が、科学的手法を人事にも生かせないかと考えた。

 セプテーニは大きな人事の課題に直面していた。ネット広告ビジネスの黎明期で、「ビジネスの成長に人材の育成が追い付いていなかった。頑張って採用した人材がすぐ辞める悪循環に陥っていた」(上野勇・セプテーニ取締役)。そこで、「新卒採用の基準をいかに学歴の高い人を採るかではなく、いかに会社に価値を提供してくれるかという客観的基準に変更した。その瞬間、競合との人材獲得競争から解放された」(同)という。

 新卒採用では、学生にエントリーシートを提出させることはない。志望動機は入社後の戦力とは相関がないからだ。学生はエントリーするときに、FFSテストを受けるだけ。このテストで、応募者のパーソナリティーが分かる。

 セプテーニには、20年近くも蓄積してきた社員の「評判評価」なるデータが1000人分以上ある。年に2回、全ての社員が1人当たり平均20人もの社員から360度評価がなされていて、それが評判評価データとなっている。

 これらの評判評価データと新卒応募者のデータを機械や人工知能(AI)で分析すると、仮に応募者が入社した場合に、類似した社員の過去データから、新卒応募者の「業績予測(どれだけパフォーマンスを上げるか)」や「定着率」などが明らかになる。要するに、会社との相性が分かるのだ。

 データのマッチングで判断できるので、15年からは3回あった面接を1回に減らした。採用よりも内定後のキャリア形成にエネルギーを注いでいるのだ。

 驚くべき話がある。人事部が落とし、AIが合格判定を出した学生5人のうち4人が、早期に業績に貢献したという結果が得られたのだ。面接官による面接はどうしてもバイアスがかかる。ついに、今年4月入社の新卒社員の4割は面接なしのオンライン採用にしてしまった。地方学生を掘り起こす結果にもつながっている。「将来的に人事部はなくそうと思っている」(上野取締役)というから潔い。

 一連の人事施策に掛かる設備投資はわずか500万円。だが、忘れてはならないのは、セプテーニが人事をAI化したわけではない点だ。最適な組織をつくるために大事なのは、経営が目指す方向性にどのような人材が必要なのかという、経営と一体となった人事戦略があること。そして、早期に人事部が人事権を放棄することだ。