宇宙のどこかに…
しかし、シリコンを拠り所とする生命、さらに想像をたくましくするなら、他の化学構造に基づいた生命が、宇宙のどこかのさまざまな状況下で繁栄しているかもしれない。そういった可能性を排除するのは愚かなことだ。
生命とは何かを考えるとき、われわれは、生命と非生命をはっきりと線引きしがちだ。細胞は明らかに生きているし、細胞の集まりでできたすべての生き物も生きている。しかし、もっと中間的な立場の「生きているような形態」も存在する。
ウイルスがその典型だ。ウイルスは、DNAもしくはRNAを基にしたゲノムを持つ、化学的存在だ。そのゲノムには、ウイルスを密閉するタンパク膜を作るための遺伝子が含まれている。ウイルスは自然淘汰によって進化できるので、マラーの定義は通るが、生命と言っていいかどうかは分からない。ウイルスは厳密に言うと自己増殖できないからだ。
ウイルスが繁殖する唯一の方法は、生き物の細胞に感染して、感染した細胞の代謝を乗っ取ることなのだ。
あなたが風邪を引くと、ウイルスが鼻の内側の細胞に侵入し、鼻の細胞の酵素と原材料を使って、ウイルスの再生を繰り返す。あまりにも多くのウイルスが作り出されるため、あなたの鼻の感染細胞は破裂してしまい、何千もの風邪のウイルスを放出する。
放出されたウイルスは、近くの細胞に感染し、血流に入り、あらゆる場所の細胞を感染させる。これは、ウイルスが自らを永続させるためのきわめて効率的な戦略だが、宿主の細胞環境と独立して機能することができない手段でもある。言い換えれば、他の生命体に完全に依存しているのだ。
ウイルスは、宿主の細胞の中で化学的に活性化して増殖中の「生きてるもの」と、細胞外で化学的に不活性なウイルスとして存在している「生きてないもの」を循環していると言ってもいい。
(本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)
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