ビットコインはこれと同じような問題に対処する必要があった。自律的な分散型ネットワークがうまく機能し、第三者の仲裁がなくてもみんながビットコイン通貨を信頼できるようにするためには、正しい“命令”(この場合、ビットコインのすべての取引・所有記録に相当)についての合意が存在しなければならない。

 この問題の解決法こそが、ビットコイン・ブロックチェーンの根底にある。ブロックチェーンとは、ビットコインの誕生以来の全取引記録のことだ。基本的には、複数のサイトにまたがって複製、共有、同期されたデータに対する合意を形成するためのデータベースである。

 あなたがビットコインで支払いを行うとき、あなたが意図している取引は、ビットコイン・ユーザー、具体的にいうとビットコイン・マイナー(採掘者)で構成されるネットワークの全ノードへと一斉送信される。マイナーとは、計算量という点で複雑な数学の問題の解を求めるための専用マシンを用意している人々のことだ(その労役の見返りとして、新規発行されたビットコインが支払われる)。すると、ネットワーク上の全ノードが協力してその取引の正当性をチェックする。いわば、あなたにその取引を行う資格があるかどうかを確かめるわけだ。この時点で、あなたの取引はほかの検証済みの取引のキューへと加わり、それらがブロックチェーン内の次の潜在的なブロックを形成する。

 いずれかのノードが計算問題を解くと、「プルーフ・オブ・ワーク」(仕事の証明)という形であなたの取引と組み合わされ、検証のために残りのネットワークへと送信される。解が検証されると、新しいブロックが無事ブロックチェーンへと追加される。こうして、新しいブロックは、プルーフ・オブ・ワークとともにあなたの取引記録を含んだものとなり、ブロックチェーン内の過去のブロックと数学的に紐付けがなされる。

 新しいブロックが増えるたび、あたかも暗号のようにハッシュ化されたデータがブロックチェーンに追加され、しかもそれぞれのブロックがひとつ前のブロックに基づいているので、ブロックチェーン内のデータを改竄(かいざん)するのは不可能である。なぜならプルーフ・オブ・ワークの偽造はものすごく難しいからだ。

 十分な数のノードをだまして不正な取引を承認させるような新しいブロックチェーンを作成しようと思ったら、ブロックチェーン内の1本1本の鎖を最初の最初までリバースエンジニアリングせざるをえないだろう。当然、それは信じられないくらい複雑な作業なので、このプロセスによって正真正銘の正当な取引記録が生成されると信じても安心なのだ(理論上は、既存の計算能力の51%以上を有する人が残りを不正操作することはありうるし、まだネットワークがかなり小さかったころはそれも問題になりえたが、ネットワークが一定の規模に達した今となってはまずありえなさそうだ。実際に誰がそんなに巨大な計算能力を手に入れられるのかという疑問について考えるだけでもわかる)。