河野大臣になって初めて
製薬会社と直接やりとりが可能に

――先ほど、ワクチンの確保が遅れているというお話が出ましたが、日本は五輪・パラリンピックの開催が目前に控えているのに、なぜ世界のワクチン争奪戦に乗り遅れてしまったのでしょうか?

 厚労省の役人が何もしていなかったからね。ファイザーなどのワクチンを開発する製薬会社との交渉も、すべて代弁者を通して行っていた。そんなやり方ではほかの国に勝てるわけはない。

 本来ならば、ワクチン接種の担当は田村憲久厚生労働相のはずだが、新型コロナ対策を担当しているのは、経済再生相でもある西村康稔氏だよね。ワクチン確保の主導は本来はどちらかがやるべきだが、ふたりとも厚労省の役人相手にイニシアティブを取ることができなかった。そのため菅首相は、河野太郎氏を新型コロナワクチン接種推進担当大臣に任命した。

――河野大臣であれば、厚労省とやり合えるのでしょうか?

 少なくとも、河野大臣になって初めて、ファイザーなどの製薬会社の幹部と直接、やりとりできるようになった。代弁者を通さずに、だ。そのため厚労省とやり合う必要もない。先日、河野大臣と会い、そういうことも含めていろいろとお話をしたところだ。

――河野大臣はどういった点に特に課題を持っていましたか?

 やはり製薬会社との交渉が遅れに遅れたこと。世界中で争奪戦が行われている中でも、日本は何もやっていなかった。その巻き返しに苦労しているようだ。

――3月26日放映の「朝まで生テレビ!」内で、元厚労省医系技官の国光あやの衆議院議員が、厚労省内の予防接種やワクチンに関する担当者はたった8人で、コロナ禍が始まってからこの人数で対応していると言っていましたが、この未曽有の状況において人員が少なすぎる印象です。

 感染症ってめったに起きるものではないからね。厚労省の中でも感染症対策というのは花形ではなかった。いつ広まるかわからないようなものに力を入れてこなかった。

 厚労省だけでなく、財務省にも責任はある。元厚生労働副大臣の木村義雄参議院議員が言うには、2009年に米国とメキシコ周辺で新型インフルエンザの感染者が増加した際、日本国内の感染者拡大を見越し、換気設備を整えた病床を国内の病院に用意した。新型インフルエンザは落ち着いたが、いつまたこうした感染症が発生するかわからないから病床を残しておきたいと、厚労省が財務省に言ったそうだ。

 すると、財務省はだめだと言う。せめて半分でもと食い下がったが、それでもだめだと。財務省は、社会保障費用を削減するため、「医療診療報酬を抑制し、多くの病院にベッド数削減を促し、新薬開発においても保険収載の際の価格設定を研究開発費が生み出せないような低水準に抑えてきた」(木村氏のブログより抜粋)と。

 その結果、資金不足でワクチンや治療に関する研究体制が整わない、感染症用の病床や医師、人工呼吸器も足りないなど、現在の医療体制ひっ迫の根本原因となったと彼は言っている。

自由っていうのは
案外難しいものだよ

 このように日本はずっと官僚主導型で、政治家というのは実はこれまであまり政策を考えてこなかった。政治家の75%位のエネルギーは選挙運動に取られている。残りの25%で政策を考えたり活動を行ったりする。これでは何事も官僚主導になるのは当然だ。

――政治家が政治に集中できる、そのような当たり前の仕組みにはできないのでしょうか?

 選挙運動にリソースを奪われないよう、さまざまな規制を取っ払って選挙をもっと簡単にできるようにすればいいのだけど、そうなると、誰でも立候補するようになってしまう。もちろん被選挙権があれば誰でも立候補してもいいのだけど、誰も彼も気軽に立候補してしまうと、混乱が起こる。自由っていうのは、案外難しいものだよ。

 選挙運動が大変だからと、自民党は世襲制が多い。親の代から選挙をしているからね。選挙運動はだいぶラクになるし、その分、政策を考える余裕も生まれる。具体的な政策があれば投票者も支持しやすい。

 海外、たとえば米国なんかでは、政治家と官僚との関係も日本とはまただいぶ違う。共和党から民主党になると、官僚の中心人物たちもガラリと変わる。

――どちらがよいのでしょうか?

 それは皆で考えなければいけない。日本の未来は皆で決めるものだ。そのためには、与野党の政治家や国民がしっかりと向き合い、議論をする場が必要。それこそダイヤモンドでそういう場をつくるといい。そのときはいくらでも協力する。