「数年前のことですが、息子が小学校へ入学した途端、元気をなくしてしまったんです。一律に決められた通りに行動することが良いとされるシステムが、人が持つかけがえのない個性をつぶしているのではないか。お互いをリスペクトして学び合える社会にしたい、という思いを持つようになりました」(神谷さん、以下同)

AIによる「感情の見える化」でオンラインコミュニケーションはどう変わる?I’mbesideyou代表取締役社長の神谷渉三さん。事業アイデアの発案から2カ月足らずで同社を法人登記した

 子どもたちが多様な価値観に触れる機会が必要だと考えた神谷さんは、NTTデータ勤務時代に副業として、小学生が多様な大人と交流できる教育サービス「Nei-Kid(ネイキッド)」の立ち上げ・運営や、小中高生オンライン起業家教育プログラムの開発などに携わってきた。

 Nei-Kidは経済産業省の「始動」Next Innovatorプログラムで米国シリコンバレー派遣選抜に選出されるなど高い評価を得ているが、神谷さんはジレンマも感じていたという。

「こうしたプログラムはごく限られた子どもたちにしか届けることができません。その子たちがプログラムによってマインドセットが変わっても、周囲からは『出る杭(くい)』とみなされてたたかれ、結局は個性を発揮して自己実現するのは難しいのが実態です。抜本的な問題解決には、社会全体のものさし(評価基準)を変える必要があると考えています」

 オンライン動画を活用すれば、自分のコミュニケーションを客観的に振り返ることができ、自分の個性に気づくことにもなる。それが当たり前に行われるようになれば、「社会全体が学校になる」ことにつながっていく。だからこそI'mbesideyouの動画解析では、その人が過去1カ月で最も笑顔になったのはどんなときか、その人の数カ月前と比べて笑顔の回数がどう変化しているかといった、「個人の中の相対的な変化」に注目する。

「大勢の中の標準値を設定し、それと比較するシステムのほうが技術的に簡単だし、マーケティングしやすく、コストも削減できます。しかし、僕らが目指すのは、同じものさしで全員を評価する社会から脱し、一人ひとりの多様な個性を尊重する社会。その実現に向けて困難でもやらねばならないと取り組んできて、今はかなり良いところまで来ていると思います」