オオカミを最高の友人に変える

 ほぼ同じメカニズムが、博物学者で収集家のアルフレッド・ウォレスによって提案されている。あまり広く知られていないが、ダーウィンもウォレスも、同じ一九世紀の早い時期に出されていた自然淘汰説の後を追う形で出てきている。

 スコットランド人の農学者で地主だったパトリック・マシューが一八三一年に出版した著書で自然淘汰に触れているのだ。それでもなお、ダーウィンは、自然淘汰の全体像を、包括的かつ永続的に、説得力を持つ形で示した初めての人物だ。

 人間は実際に、何千年にもわたり、自然淘汰と同じプロセスを乗っ取り、利用し、特定の性質を持つ生き物を交配させてきた。これは人為淘汰と呼ばれ、ダーウィンも実際のところ、鳩の愛好家たちがさまざまな種類の鳩を作り出すために、特定の個体を選んで交配させる方法を観察して、自然淘汰の考えを発展させたのだ。

 人為淘汰は劇的な結果をもたらすことができる。われわれは、野生のハイイロオオカミを人間の最高の友人に変え、小さなチワワから大きなグレートデンにいたる犬種を作り出してきた。

 同じように、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、ケール、コールラビも、野生のアブラナ科の植物から生じさせた。こうした変化は、比較的少ない数の世代で起こるが、何百万年もかけて自然な経過をたどった場合の、進化のプロセスが持つ、大いなる力の一端を垣間見させてくれる。

 自然淘汰は、適者生存(ちなみに、これはダーウィンが用いた用語ではない)、すなわち、競争できない個体の排除につながる。このプロセスの結果、特定の遺伝子変化が個体群に蓄積し、最終的に、生存種の形や機能に永続的な変化をもたらすことになる。

 こう考えれば、甲虫の中に、赤い斑点のある前バネを発達させたものもいれば、泳ぐことや、糞の玉を転がすことや、暗闇で光ることを身につけたものがいることを説明できる。

(本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)

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