「ボケ」と「ツッコミ」が、スタートアップ成功の条件
金沢 ありがとうございます。ただですね、実は、田所さんと話していると、たまに「自分の言葉」変換する作業が一切必要なく、スコーンと腹に落ちる言葉が出てくることもあるんですよ。
たとえば、「事業を大きく育てる秘訣は『ボケ』と『ツッコミ』だ」という言葉も、ぼくの中ですんなり腹落ちできたもののひとつです。「ほんと、そうなんだよなー」と。
田所「ボケ」と「ツッコミ」は大事ですね。優れた事業をつくるにはもちろん、大きなビジョンを描き、大きな風呂敷を広げる人が必要です。これがつまり、漫才でいうところの「ボケ」。優れた事業をつくる人は、ボケというか、いわゆるビジョナリー、風呂敷を広げる人。スティーブ・ジョブズや孫正義さん、本田宗一郎さんのような人ですね。
でも漫才が「ボケ」だけで成り立たないように、事業も「ボケ」だけではうまくいかない。「ツッコミ」の存在が必要になんです。「ボケ」が広げた風呂敷をリアリスティックに事業化する「実現屋」。これが「ツッコミ」です。スティーブ・ジョブズが広げた風呂敷を、モノの制約がある中で実現させたスティーブ・ウォズニアックはまさに「優れたツッコミ」ですね。
GAFAはとくに「ボケ」と「ツッコミ」の構図が際立っています。グーグルも、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは完全なるオタク研究者で「ボケ」。そのボケが、エリック・シュミットという「ツッコミ」によって活きました。
フェイスブックもそう。マーク・ザッカーバーグは完全に「ボケ」で、彼はお金なんかどうでもいいと思っている。しかしその「ボケ」を、ハーバードビジネススクールを首席で卒業し、グーグルのアドワーズをつくった超エリートの「ツッコミ」であるシェリル・サンドバーグが見事に実現させました。
金沢 ほんと、そうですよね。
元プルデンシャル生命保険ライフプランナー AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
入社1年目にして、プルデンシャル生命保険の国内営業社員約3200人中の1位(個人保険部門)になったのみならず、日本の生命保険募集人登録者、約120万人の中で毎年60人前後しか認定されない「Top of the Table(TOT)」に3年目で到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な実績を残した。
1979年大阪府出身。東大寺学園高校では野球部に所属し、卒業後は浪人生活を経て、早稲田大学理工学部に入学。実家が営んでいた事業の倒産を機に、学費の負担を減らすため早稲田大学を中退し、京都大学への再受験を決意。2ヵ月の猛烈な受験勉強を経て京都大学工学部に再入学。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍した。
大学卒業後、2005年にTBS入社。スポーツ番組のディレクターや編成などを担当したが、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じて、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命保険に転職した。当初は、アポを入れようとしても拒否されたり、軽んじられるなどの“洗礼”を受けたほか、知人に無理やり売りつけようとして、人間関係を傷つけてしまうなどの苦渋も味わう。思うように成績を上げられず苦戦を強いられるなか、一冊の本との出会いから、「売ろうとするから、売れない」ことに気づき、営業スタイルを一変させる。
そして、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRT(Million Dollar Round Table)の6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、自ら営業をすることなく「あなたから買いたい」と言われる営業スタイルを確立し、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な業績をあげた。
2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReebo(アスリーボ)株式会社を設立した。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。
「勝手に湧き上がってくる思い」が重要
田所 もちろん、「ボケ」と「ツッコミ」は、必ずしも2人いなければならないわけではありません。自分ひとりで「ボケ」と「ツッコミ」の両方ができればいいんですけど、なかなかそう簡単に頭を切り替えられるものではありません。いろんなスタートアップを見てきましたが、やっぱり「ボケ」と「ツッコミ」の2人が揃っている企業のほうが、事業として大成しやすいですね。
金沢 その意味では、田所さんから鋭い「ツッコミ」を浴びる毎日って、めっちゃありがたいことですね。先日も「金沢さんにリソースがあるのはわかるけど、で、どうするの?」なんてツッコまれて、ぐうの音も出なかったですけど(笑)。それこそが勉強ということなんだと思います。
田所 ぼくの感覚では、金沢さんは決して「ボケ一辺倒」ではなく、実はものすごい「ツッコミ」でもあるという印象です。人から受け取った言葉を自分の中で何度も反芻し、内省するわけですからね。本当の「ボケ」は内省しませんもん(笑)。ひたすら燃え上がって、バーっと突き進むだけです。だから第三者としての「ツッコミ」が必要になるんです。
そもそも金沢さんは、自分の考えを自分の言葉で紡ぎ、本にまとめられる人。もちろん「大きなビジョンを描き、大きな風呂敷を広げる」という「ボケ」の比重のほうが大きいのですが、自分自身に「ツッコミ」を入れられる希有な存在でもあると思います。だから私は今、金沢さんに「ツッコミの考え方」を重点的にインストールしている感覚ですね。そこが腹落ちできたら本当に強い。
金沢 ありがたいお言葉ですね。ところで、ぼくの中では、「ボケ」は先天的なものというか、「自分の中から勝手に湧き上がってくるもの」というイメージで、一方の「ツッコミ」は後天的な、勉強で身につく技術のようなイメージを持っているんですが、田所さんはどう考えていますか?
田所 いや、「ボケ」が「自分の中から勝手に湧き上がってくる天然のもの」という考えは否定しませんが、「ツッコミ」は決して「勉強だけで身につくもの」ではありません。やはり「ツッコミ」にも、「自分の中から勝手に湧き上がってくるもの」が必要なんですよ。
確かに「ボケ」には、「どのようにして経路を定めていったらよいのかはわからないけれど、とりあえず答えは見えている」というような、ある意味「天才肌」の面があります。まさに「先天的」なイメージが強いのはこれが理由でしょう。
一方、「ツッコミ」は、「ボケ」が思い描いている答えにたどり着くまでの「具体的な経路」をつくるのが仕事です。ここだけを見れば「ツッコミ」の技術が勉強で身につくイメージもうなずけます。
ただ、考えてみてください。自らが見出したゴールに向かって、経路もわからずにひたすらバーっと突き進む「ボケ」が、さまざまな経営理論を机上で勉強しただけの「ツッコミ」の言うことを聞くと思いますか?(笑)
金沢 ああ、理屈だけ言われても、「うるさいわ」となりそうですね(笑)。
田所 でしょう? だから、結局のところ、「ツッコミ」にも「ボケ」と同じく、「自分の中から勝手に湧き上がってくるもの」が必要なんです。その「勝手に湧き上がってくるもの」が、「ボケ」と「ツッコミ」で共鳴しているからこそ、両者のコミュニケーションも成立する。
そして、それをもたらすのは「実践」です。自分自身が当事者として、得た知識を実践した経験がどれだけあるか。どれだけの成功と失敗を重ね、何を得たか。それを踏まえた「自分の中から勝手に湧き上がってくるもの」がないと、暴走する「ボケ」を制止し、あるべき道を歩ませることはできません。結局「思い」がないと、人は動かないんですよ。
(第2回に続く)