Appleは、2020年から2021年にかけての新型コロナウイルス禍においても順調に業績を伸ばし、株価も史上最高値を記録するなど、非常時でも変わらぬ安定度を見せつけている。今年の1月に発表された2020年10~12月期の売上高は1114億3900万ドル(約11兆6200億円)で、四半期としての過去最高であるだけでなく、初めて1000億ドルの大台を突破した。同社の勢いは、今後5年以内に初の時価総額2兆ドル(約217兆円)企業になると予想するアナリストもいるほどだ。スティーブ・ジョブズ没後10年を経ても衰えることのないAppleの強さの秘密はどこにあるのか? ここでは、過去も振り返りつつ、5つの観点から分析してみた。(テクノロジーライター 大谷和利)
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唯一無二の開発体制とビジネスモデル
ご存じのように、現在のAppleは時価総額で世界トップクラスの企業であり、最大手のIT企業群を指す、いわゆる“GAFA”の一角を占めている。実は、GAFAは、ほぼ日本だけで使われている用語であり、一般的に英語圏では単に“Big 4”と呼ばれることが多いのだが、便宜上、ここではGAFAとしておく。
この4社、すなわちGoogle、Amazon、Facebook、Appleは確かにIT業界に君臨しているが、実際のビジネス内容は前3社とAppleとで大きく異なっている。
Google、Amazon、Facebookは、近年、それぞれGoogle Home(スマートスピーカー)やPixel(スマートフォン)、Amazon Echo(スマートスピーカー)、Oculus Rift/Quest(VRゴーグル)などのハードウェアも手がけるようになり、AmazonはEコマースの巨人でもあるものの、基本的にはユーザーの関心や嗜好に関わる個人情報を収集し、それを広告枠や製品の販売につなげるビジネスモデルである。
一方、Appleのビジネスの根幹は自社開発したハードウェアの販売と、それを利用するコンシューマー向けクラウドサービスのサブスクリプションビジネスにある。情報の収集や利用は最小限に留め、特に機密性が高い個人情報はApple自身も解読できない暗号化や端末側のみで完結する処理の仕組みによって守られている。
実のところAppleは、2000年代に入るまでにメディアの記事の中では40回以上も倒産していたはずの企業であり、90年代半ばにはアナリストから「ハードウェアを捨てて、Microsoftのようなビジネスモデルに転換すべき」とさえ言われていた。もしアナリストのアドバイスに従っていたら、今日のAppleは存在していなかったに違いない。1996年末に復帰した故スティーブ・ジョブズが一歩も譲らず、理想とするハードウェアをOSやアプリと共に統合的に開発する道を貫いたこと、そして、その流れを引き継いだティム・クックが、サービス面の強化と半導体開発を推進したことによって、Appleはハードウェア、OS、アプリ、サービス、半導体を、三位一体ならぬ五位一体で開発する唯一の企業となり、それが現在の成功の礎となったのである。