なぜ「スキンシップ」が大事?
小竹 私がたくさん付箋をつけたのは、「コミュニケーション力」のところです。うちの娘はスキンシップが大好きで小学校高学年になってもくっついてくるので、「どういうことなのかな?」と思っていたのですが、この本では、皮膚の刺激で脳に好影響を与えられる、と説明されていて。「そうか、大事なことなんだな」と腑に落ちました。
加藤 子どもがスキンシップを求めてきたら拒まないことが大事なんですよね。
小竹 理由がわかると受け止め方も変わりますね。加藤さんが研究者や専門家にたくさんインタビューされてきたから、エビデンスが揃っている。スキンシップのページを読んで、参照されていた桜美林大学の身体心理学者、山口創教授について調べたりもしました。
加藤 数多くの研究者の名前を載せてレファレンスブックとしても使えるようにしたので、そうやって興味が波及していくのはうれしいです。
先人が積み重ねてきた研究成果を調べたり、研究者の方からお話をうかがったりしながら、私自身、思い込みや古い常識に気づいたりして、頭を矯正することの連続でした。
うちの子はもう大きいのですが、子どもが小さかったころにやってあげたかったなということもいろいろ出てきて、編集さんと読み合わせをするたびにお互い深くため息をついたり(笑)。でも、意外とまだまだ使えるなと思ったこともたくさんあります。
「感情のコントロール」を教える
小竹 この本の中で、加藤さんが特に読んでほしいと思われたのはどこですか?
加藤 今回調べていてとりわけ「そうか、なるほど」と思ったのは、「感情のコントロール」の項目ですね。法政大学の渡辺弥生教授がおっしゃっていたのですが、大学生に「今から30秒で感情を表す言葉を書いてみてください」と言うと、手が止まってなかなか出てこないのだそうです。今の若者はなんでも「やばい」で済んでしまう。
小竹 「やばい」は私も言ってるかも。若者じゃないけど……。
加藤 表現と感情のコントロールには密接なつながりがあります。感情を表現できないからキレたり、ごく稀なケースとはいえ、究極的には犯罪にもつながってしまう。昔はコミュニティが感情のコントロールスキルを育ててくれていたのですが、いまは親が意識的に教えていく必要があるそうです。
小竹 親が働きかけないといけないんですね。
加藤 そうなんです。親自身が本を読んだりして語彙を豊かにしていくことも大事でしょうね。それから、親が「聞いてあげること」と「応答すること」も非常に大切だそうです。
大人が子どもの気持ちを先回りして「悔しかったよね」と言っても、実は子どもは落ち込んでいなかったりする。親が決めつけていることと子どもの内心にはズレがあるので、気持ちをちゃんと聞いてあげる必要があるんです。
そして「応答する」。子どもが「暑いね」と言ったら、「そうだね」で終わらせず、「暑いけど、昨日に比べたら涼しいよ」などとやりとりをするんです。いまはリアルな場でのコミュニケーションが減っているので、親と子の対話がますます重要になっています。
小竹 なぜコミュニケーションが減ってしまったんでしょうか?
加藤 スマホの普及もあるし、教育も個別最適化の傾向になってきています。公園でも昔は子ども同士にヒエラルキーがあって自然にいろんな感情が学べていましたが、いま都会の公園はルールが厳しくてそれが叶わない。
さらにパンデミックで家にいる時間が必然的に長くなると、コミュニケーションの絶対量がますます減ってしまいますよね。子どもの成長にとって大きな問題です。
小竹 これまでは重要とされてなかったことが、いまは大きなキーワードになっているんですね。
加藤 そうなんです。感情のコントロールスキルは、昔と違って家庭で積極的に教えてあげたほうがいい……ということはぜひ知ってもらいたいです。
クックパッド株式会社コーポレートブランディング・編集担当本部長
1972年石川県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオでWEBディレクターを経験後、2004年有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。広告主とユーザーのwin-winを叶えた全く新しいレシピコンテストを生み出す。2006年編集部門長就任、2008年執行役就任。2010年、日経ウーマンオブザイヤー2011受賞。2012年、クックパッド株式会社を退社、独立。2016年4月クックパッドに復職、現在に至る。また個人活動として料理教室なども開催している。シンプルでおいしく、しかも手順がとても簡単なレシピが大人気で、生徒から「料理のハードルが低くなった」「毎日料理が楽しいと感じられるようになるなんて」の声多数。このたび、日経BPから『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』を上梓、話題となっている。