東急電鉄の事業戦略もこれを受けた内容となっており、運行本数の適正化や終電時刻の繰り上げ、駅配置人員見直しなど「運行・駅サービス体系の変革」や、東横線でのワンマン運転の検討・実施など「テクノロジーを活用したオペレーション変革」、運転・運輸部門における柔軟な勤務体制の導入など「旧来からの慣習にとらわれない社内諸制度・ルールの変革」などが掲げられている。

 2022年に創立100周年を、2022年度下期に東急新横浜線開業を控えた同社にとって、コロナからの反転攻勢を掲げた本事業戦略は重要なターニングポイントであるといえるが、その中でも注目すべきは説明資料に記された「お客さまの負担増を極力抑えた形での運賃改定についても検討し持続的な鉄道事業を目指す」との一文である。

コロナ後の需要減予測が
各社の運賃改定を後押し

 東急では、消費税増税に伴う運賃改定を除けば、1995年9月に初乗り運賃を90円から110円に変更した全面的な運賃改定、2005年3月に初乗り運賃を110円から120円に変更した小規模な運賃改定以降、運賃を変更してこなかった。

 これは東急に限らず、首都圏のほとんどの鉄道会社で共通したことだ。というのも、2015年を100とした総合消費者物価指数(東京都区部)で見たときに、1995年は101.3、2005年は98.8であり、この四半世紀、デフレ経済下で物価の変動がほとんどなかったからである。

 また鉄道各社ではバブル崩壊以降、90年代から2000年代中盤にかけて一時、利用者が低迷した時期があったが、2000年代後半以降は都心回帰を追い風に輸送人員は過去最高を記録し続けていたことも、鉄道事業者を運賃改定から遠ざけていた要因のひとつだった。

 ところが、そこに冷や水を浴びせたのがコロナ禍であった。各社とも輸送人員は3割前後減少し、2020年度決算では大手私鉄全てが赤字に転落した。輸送需要の落ち込みは一時的なものではなく、テレワークなどの急速な普及により、特に定期利用者はコロナ前のようには戻らないというのが一般的な見方だ。