運賃改定の時期は
早くても2023年

 ただこの運賃改定、いつ頃行われることになるかは不透明だ。鉄道事業法は鉄道の運賃について、運賃の上限について国土交通大臣の認可を受け、認可された上限額の範囲内であれば届け出だけで運賃を変更できる仕組みになっている。

 上限額は鉄道運行に必要な経費や人件費、減価償却費、支払利息などに加え、事業報酬を加えた総括原価から算出されている。収入が総括原価を下回れば、運賃を改定し、適正な額に変更することができる。

 先述の西日本鉄道の運賃値上げは、元々上限額未満に設定していた運賃を上限額まで引き上げる形で行われたもので、届け出だけで運賃改定が可能だったことから、今年3月というタイミングで実施することができた。

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 しかし、東急や近鉄が検討している運賃改定は上限金額を改定するものであり、国交省の認可が必要になるが、その基準となる総括原価は3年間の平均で算出されることになっているため、コロナ禍の影響がある程度見通せる段階になるまで改定は難しいのが実情だ。

 東急も2023年度までの事業戦略の期間中の実施を目指して検討していると説明しており、2020年度から2022年度の3カ年の影響を見極めた上で、早くても2023年の運賃改定になるのではないだろうか。

 戦後、鉄道事業者が鉄道事業で多大な利益を上げるようになったのは、実はここ20年程度のことである。それ以前は公共料金抑制政策の下、運賃水準は低く抑えられ、鉄道各社は不動産や百貨店など関連事業の収入で赤字の鉄道業を支える構図だった。

 コロナ禍により鉄道の収益性が大きく低下する中、鉄道事業は再びもうからない仕事になるのか。機動的な運賃改定により、一定の利益を確保するのか。国の運賃政策が問われることになりそうだ。