技術進歩のPDCAを全社視点で積み重ねて
一歩ずつ進化させる
一方、トヨタには昔から、安易に新しい技術には飛びつかない慎重な企業文化があります。
モデルチェンジ、マイナーチェンジがあるたびに、工場で直近に導入した技術に、さらに新しい技術導入を付加していく「カイゼン」を粛々と実行し、インクリメンタル(漸増式)な進化を基本としています。
この両社の違いを一言で言ってしまえば、トヨタは「工場は変われども、技術進歩のPDCAを全社視点で積み重ねて一歩ずつ進化させる」という考え方だと言えます。
今であれば、組み立てロボットそのものも量産されて品質も安定していますが、当時は、まだそのレベルには至っていない、個別生産される設備でした。当然、導入の責任者も、ある程度の故障が起きることは織り込み済みだったはずです。
しかし、いざ某自動車メーカーで新車の量産が開始されると、新規に導入された産業用ロボットの数に比例した数の故障が発生します。そこまでは読まれていたようですが、これに対応するメンテナンス担当者の数がまったく足らず、修理待ちのロボットがたくさん出てしまい、ひどい時はライン稼働率が6割程度にまで低下したと言われています。
たとえば、1日に100台の自動車が出荷される計画であれば、60台しか出荷されないのです。顧客には納品を待ってもらうにしても、設備の投資額に対して6掛けの台数しか売ることができないのですから、当期の1台当たりの事実上の原価は大きく跳ね上がることになります。ここで作られる新車の納車期間が長くなり、おそらく見えない部分で、売上の機会損失もかなり起きていただろうと考えられます。
この手の失敗事例には、枚挙にいとまのないほど数多く遭遇してきました。一体なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか?