ビジネスツールの販売業は、
売上を追いかけるほど「夢を売る商売」に近づく

 ITや先端技術、経営を取り巻くビジネスツールを販売するビジネスは、売上を追いかければ追いかけるほど、その実態は「夢を売る商売」に近づいていってしまいます。

 経営周りに出現する、新しい言葉や概念のほとんどがバズワードから始まり、多くはバズワードのままに消え去り、そのうちいくつかが徐々に実体化し、定着して残るものもあります。

 重要なのは、自社であえて今、リスクをとってその新しい概念に飛びつき、わざわざバズワードの実体化に投資して、世の中に貢献する判断をするのか、という視点だと言えます。

 プロ経営者、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、SGDs(持続可能な開発目標)……。今でも、我々は数多くのバズワードに囲まれています。

 笑い話ですが、先日もビジネス系の新聞社の方々と会話していると、「DXばっかり。まだ実態がよくわからないのに、何でもかんでもDXだと。もう、うんざり」と言われていました。

 最近のAI技術では、小売店内の顧客の動きをカメラで捉え、自動課金を可能にする技術もよく知られています。そして、その記事を目にしている経営者たちは、「うちは世の中の動きに遅れているのでは」と不安をあおられ、ベンダーはそこに新しい提案を持ちかけます。

 さて、それでは、無人店舗などの実験を続けるアマゾンを我々はどう捉えればいいのでしょうか。

 2019年に、アマゾンが無人店舗を複数、実験しているサンフランシスコのダウンタウンで、さらにその安価版システムを開発したZippin(ジッピン)の社長と会ってきました。

 アマゾンのシステムは、まだ認識率が悪く、ほとんどの買い物で、AIによる顧客の購買行動の画像判別ができず、センターではアラームが鳴ってしまい、録画されたビデオを人が見て判断しているのが現実です。

 実際に買い物をすると、店を出てから精算メールが届くまでに30分、ひどい時には4時間以上もかかるのは、そのためです。Zippinの社長いわく「当社のシステムもそうだが、AIが学習しているので10年も経(た)てば正しく認識するだろう。実際にどのくらいかかるかは、誰もわからないのだが……」

 つまり実態としては、まったく使い物になってはいないのが現実です。

 しかしアマゾンはこの挑戦的な実験を通して、他の誰もが得ていない「学び」を得ることの意義を理解しています。彼らの持つ潤沢な資金力のもとで行う実験であり、根幹の事業に影響を与えるものではないという点で、前回の自動車会社の事例とは根本的に異なります。