対策なき宣言
菅直人副首相(国家戦略担当)が日本経済はデフレであることを宣言した。ここのところ菅大臣が、小泉内閣時の竹中平蔵氏のようにマクロ経済について説明することが多いが、まだしっくり来ない。しかし、宣言がなくても、統計を見ると消費者物価は下落しているし、ボーナスの大幅減少をはじめとして勤労者の給与が下落傾向にあるから、国民の大多数は宣言の内容には違和感を抱かなかっただろう。
敢えて、問題があるとすれば、デフレを宣言したのに、具体的な「デフレ対策」を発表しなかったことだ。宣言だけで対策の発表がなければ、世間に対して「ああ、やっぱり世の中はデフレなのだ」という印象を与えるだけのマイナスのアナウンスメント効果になってしまうのではないかという点が心配だ。
デフレは物価水準全般の下落であり、言い換えるとモノやサービスに対して相対的に貨幣価値が上昇しているということだ。一般的なデフレの解決方法は、金融を緩和することであり、具体的には、中央銀行が金利を引き下げると共に銀行による貸し出しが活発化して貨幣を増やすように仕向けることだ(貨幣には現金だけでなく預金も含む。銀行の貸し出しが増えると民間の非銀行部門の保有する貨幣が増える)。
2000年代の初頭に日本がデフレに苦しんでいたとき、日銀は大量の国債(但し残存期間の短いもの)を銀行から買って市中銀行に大量のお金を供給する「量的緩和」といわれる政策に踏み込んだが、市中銀行から民間への資金の流れ(銀行貸し出し)が伸びず、なかなか実効が上がらなかった。結局、為替介入による円安と海外の景気回復による景気の拡大と資金需要でデフレは軽快に向かった(完全なデフレ脱却だったのかどうかには疑問がある)。
しかし、今回は日本以外の先進国も経済的なトラブルを抱えていて、介入による円安は難しそうだ。藤井財務大臣も介入による円安誘導を行う気はなさそうだ。そうなると、資金需要(特に銀行からお金を借りたいという需要)が無いと実質的な貨幣の流通が拡大しないが、今のところ民主党政権は財政赤字の拡大による需要拡大策に積極的ではない。結局のところ、中国をはじめとする新興国の経済成長とこれがもたらす需要に期待するしかない展開が予想される。デフレの脱却には時間が掛かるかも知れない。