ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は、新天地で組織を任された
「よそ者リーダー」の最終目標についてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)

『「よそ者リーダー」の教科書』著者の吉野哲氏による、新天地で組織を任された「よそ者リーダー」の最終目標とはPhoto: Adobe Stock

結果を出すことが
ゴールではない

組織を任された“よそ者リーダー”にとってのゴールとは何か──。

それは「後継者に任命できる人材が育って、経営をバトンタッチすること」です。

経営再建や業績回復、新規事業の成功といった「課せられたミッションの達成」もひとつのゴールであるのは言うまでもありません。

ただ私は、「会社経営の最大の目的は、会社を持続的に存続・発展させ、働く者を不幸にしないことにある」と考えています。だとすればミッション達成はもちろん、それ以上に、その達成がもたらした成長や発展を「持続させること」も重要になります。

外部から着任した“よそ者”は、その会社に骨を埋める覚悟を求められながら、一方では「期限付き契約」という立場であることを意識しておく必要があります。

期限付きである以上、いずれリーダーのポジションから離れるときがやってきます。

そのときのためにも目の前のミッションの達成に取り組むと同時に、後を託せる人材を育成しておかなければなりません。

信頼のおける後継者に自分のバトンを渡すフェーズにまでたどり着くこと──それこそが、「よそ者リーダー」が目指すべきゴールなのです。

私が後継者人材を探す際にもっとも重要視するのは、その人の「バランス感覚」です。

同じ組織にあっても分野や位置付け、目指すべき目的などが異なれば、ルールや考え方、価値観なども違ってきます。

・営業、生産、管理といった職種への理解やスタンスというバランス
・儲ける商売と、薄利であっても意味のある商売とのバランス
・ベテラン社員と新たに加わった社員のバランス、アグレッシブな人材とディフェンシブな人材とのバランス
・売り手と作り手のバランス、安定志向と成長志向のバランス

組織全体の舵を取るリーダーに求められるのは、こうした「二律背反」的ファクターを冷静に調整できるバランス感覚であり、あらゆる分野を偏りなく見渡せる能力なのです。

アウェーの地に身を置き、強い覚悟を持って大きな責任に向き合ってきた取り組みや成果を“一過性のもの”で終わらせないために。

自分が去った後も組織が成長し発展できる、サステナブルな事業運営体制を構築するために。

人材を育て、組織を育て、未来を託すに値する資質を持った次世代の後継者を見出してバトンを渡す。

このゴールへの到達こそが、「よそ者リーダー」の仕事の集大成であり、喜びであり、やりがいであり、縁あって任された組織への最大の置き土産になるのだと思います。

変化に対応する柔軟さや多様性、持続可能でサステナブルな組織運営が求められるこ時代、「よそ者」や「凡人」という境遇をハンディと考える必要などありません。

むしろ、“よそ者”だからこそ可能な組織運営がある。
凡人にしか発揮できないリーダーシップがある。
“よそ者”や凡人ゆえに、到達できるゴールがある。

――そう、ポジティブに捉えていただきたい。

突如、リーダーになって組織を任され、不安を抱えている“ごく普通のビジネスパーソン”のみなさん。

突如、「あの会社で社長をやってくれ」と言われ、まったくの新天地で経営責任者の重責を背負うことになった“よそ者リーダー”のみなさん。

みなさんに、同じ経験をしてきた者として心からエールを送りたいと思います。

※「よそ者リーダーとはどんな人か」「よそ者リーダーが身につけたい3つの心構えやマネジメントとは何か」については、本連載の初回記事も併せてご覧いただければと思います。