ソニーの復活を支えた
映像系センサー技術

 2000年代に入り、ソニーは稼ぎ頭となる事業を育成できず株価が低迷した。背景には複数の要因がある。家電分野では中国や韓国など新興国の企業が技術力を習得し、わが国企業を追い上げた。また、米国のアップルはiPhoneなどのヒット商品を生み出した。アップルは自社製品の設計・開発や音楽配信などソフトウエア分野に集中して取り組んだ。同社はiPhoneなどの生産を中国や台湾の企業に委託して事業運営の効率性を高め、高付加価値型の商品創出に注力した。

 そうした変化によって、ソニーを取り巻く競争環境は激化した。その中で、ソニーは「顧客が何を欲しているか」を見失ったようだった。

 収益を守るために、ソニーは人員削減や不採算事業の売却などリストラを余儀なくされた。2014年に入るとソニーはパソコン事業を売却し、さらには1958年の株式上場以来で初めての無配を発表した。無配発表の狙いの一つは、このままでは存続が難しくなるという危機感を組織全体で共有し、改革を加速させることだっただろう。

 その後、ソニーは電池事業など不採算事業の売却を進め、世界トップシェアを誇るイメージセンサー事業に経営資源を再配分した。それが意味するのは、ソニーが厳しい状況の中でも「モノづくりの精神」を維持し、自社が強みを発揮できる先端分野の技術に磨きをかけたことだ。

 その事業戦略が業績改善を支えた。スマホのカメラ複眼化や工場の自動化(ファクトリーオートメーション)、さらには自動車に用いられる画像処理センサーの増加などを追い風に、ソニーのCMOSイメージセンサーは世界的にヒットした。ソニーは画像・映像系の技術を生かしてフルサイズのミラーレスカメラや、高速連写機能の強化などによるスマホの差別化に取り組み、人々に鮮烈な感動を与えるコンテンツ作成を可能にする技術にも磨きをかけた。