コンテンツ事業の強化で
業態転換に成功

 その上で、ソニーは映画、ゲーム、音楽といったコンテンツ事業を強化し、人々が「欲しい」と思うヒット商品を生み出した。映画分野では子会社であるアニプレックスなどが制作、配給を行う『鬼滅の刃』が大ヒットした。また、コロナ禍での巣ごもり需要によってPlayStation5とソフトの販売も増えた。

 それに加えて、ソニーは「360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)」と呼ばれる立体音響技術を用いたストリーミングサービスを開始した。ソニーは立体音響技術を用いて「YOASOBI」の楽曲のもとになった小説のオーディオドラマを配信するなど、最先端の技術を用いたコンテンツ創出に注力している。それらは21年3月期の業績拡大を支えた要素だ。見方を変えれば、ソニーはハードとソフトを結合し、感動を生み出す企業へと着実に業態転換を進めている。

 モノづくりとコンテンツを融合して人々に感動を届けることこそ、ソニーの原点であり、真骨頂だ。かつてソニーが世に送り出した「ウォークマン」は世界の若者の心をわしづかみにした。さらに、ソニーは多くの国際規格も生み出した。

 たとえば、CDの開発過程において、蘭フィリップスがドイツ工業品標準規格を基準に11.5センチメートル(60分)を主張したのに対し、ソニーはベートーヴェンの交響曲第9番が収録可能な12センチメートル(75分)のディスクサイズを主張し、最終的にソニー案が採用された。その背景には、オペラの幕や「第9」が途切れずに入らなければ、ユーザーにとって価値あるメディアとはいえないという大賀典雄氏(当時のソニー副社長)の考えがあった。

 そのほかにも「トリニトロンテレビ」や「ハンディカム」など、ソニーは最先端の技術を用いて、「こんなものがあったらいい」という人々の欲求を満たした。それがソニーの強さである。