技術とコンテンツの結合で
鮮烈な感動を与えるソニー

 ソニーの前身である東京通信工業の設立趣意書には、「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」や「日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動」といった理念が記されている。ソニーはその理念を大切にして映像や音響関連の技術とコンテンツを結合し、新しい感動を世界に与えようと取り組んだ。その結果、1兆円超の純利益が得られた。21年3月期、本邦企業で純利益が1兆円を超えたのは、ソニー、トヨタ自動車(約2.2兆円)と、カネ余り環境下での株高に支えられたソフトバンクグループ(約5兆円)の3社だけだ。

 無から有を生み出すという点で、ソニーやトヨタの成長が中長期的なわが国経済の展開に与える影響は大きい。ソニーが世界の消費者の欲求に耳を傾け、より多くのファンが欲するモノやコトをひたむきに生み出そうとし続ける間は、業績の拡大が期待できる。電気自動車のコンセプトである「VISION-S」の発表、高精度の光検出と測距センサーの開発と実用化は、ソニーが世界の消費者、ファンの要望に応えようとしていることを示している。ソニーが米AT&T傘下のアニメ配信大手クランチロールを買収したのも同様の意図がある。

 米国にて公開された劇場版『鬼滅の刃』が初週週末興行収入の歴代最高を記録したように、モノづくりとコンテンツの結合を進め業態転換に取り組むソニーの事業戦略は着実に成果を上げている。一方で、中国や韓国企業の追い上げ、動画配信プラットフォーマーの成長など、ソニーを取り巻く事業環境は厳しさを増している。そうした状況下、ソニーが過去の成功体験にとらわれず、日々、新しいモノとコトを生み出す総合的な力を高めてより多くの人に鮮烈な感動を与え、成長する展開を期待したい。