77兆円の予算を何に使ったのか

 さらに不思議なのは、コロナ対策として日本政府が77兆円(詳細は後述)も使っていることだ。日本の毎年の予算は、コロナ以前の19年度で101兆円だ。うち23.5兆円が国債費(利払い費+償還費)なので、人やモノに支出しているお金は78兆円である。

 つまり、通常の予算とほぼ同じ額がコロナ対策予算となっている。77兆円の予算を余計に使って、日本のGDPは22兆円減少した。本来99兆円(77兆円+22兆円)減少したところを、77兆円の予算を使ったから22兆円の減少で済んだ、ということなのだろうか?私には到底信じられない。77兆円の使い方がお粗末なのではないだろうか。

 77兆円の内訳は、下表のようになっている。20年度1次、2次、3次の3回の補正予算額のうちコロナ対策関連のものを足し合わせたので、細かいところでは誤りがあるかもしれないが、大きくは間違っていないはずである。

 内訳を見ると、所得保障が17兆円、1人当たり10万円の給付金が13兆円、融資が14兆円、医療費が12兆円、Go Toトラベルキャンペーン関連が3兆円、さらに、強靭な経済構造構築、デジタル、イノベーションによる生産性向上、国土強靭化、その他で16兆円ある。

 所得保障17兆円のうち、新型コロナウイルス対応地方創生臨時交付金は、経済活動に影響を受ける事業者の支援や、感染症防止強化策に使用できるとのことだから、一部は所得保障、一部は医療体制の強化(感染を減らして医療体制の負担を削減できると考えられる)の項目に回すべきかもしれないが、すべてを所得保障とした。

 旅行、外食などの需要が蒸発して、いきなりお客や仕事がなくなったのだから、とりあえずお金を配って所得を維持し、生活できるようにするしか仕方がない。

 1人10万円の給付金は、貯蓄に回ったから無駄だという意見が強いのだが、貯蓄に回ったのなら、政府が国債で調達したお金を国民に配り、国民が国債を持っているだけということである(国民は銀行預金として持っているが、貸出先のない銀行が国債を買っているので同じことである)。別に無駄になっているわけではない。また、これを食費や教育費に充てた国民もいるのだから、役に立っている。

 14兆円の融資は、お金が返ってきたら支出ではない。お金を借りて事業を継続できたのだから役になっている。返してもらえなければ予算の無駄かもしれないが、生活や事業に行き詰まった人は、それでもしばらく食つなぐことができた。

 考えてみると、17兆円の所得保障と14兆円の融資を、打撃を受けた30兆円の産業につぎ込んだら、とりあえずは困ることはないような気がする。他に、1人10万円の13兆円もある。それでも困っている人が多いのは、これらのお金の配り方に問題があるのではないだろうか。

 医療費に12兆円というのも、そうするしかないということだろう。ただし、日本の国民医療費は年間43兆円(政府、健康保険、患者が医療費に使った額の合計、厚生労働省「国民医療費」2020年11月30日、最新年は2018年)なので、12兆円使って、コロナ専用病床を全病床161万のうちの3.5万床、2.2%しか作れないのはおかしくはないだろうか(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症患者の療養状況、病床数等に関する調査結果(6月2日0時時点)」)。

 もちろん、PCR検査とかワクチンとか医療体制を感染症のために動員することと直接関係のないお金も入っているのだが、それにしても、である。

 他に、強靭な経済構造構築、デジタル、イノベーションによる生産性向上、国土強靭化、その他で16兆円ある。これが一体コロナとどう関係あるのかがよく分からないが、16兆円の支出は需要を拡大してGDPを増加させるはずである。にもかかわらず、なんでGDPが22兆円も減ってしまうのだろうか。

 3兆円のGo Toトラベル、Go Toイートなどは、疲弊した旅行や外食業界を助けるものだが、人々が急に動けば、コロナの感染者も急速に増加する可能性があると批判された。

 20年8月と11月の増加の波は、7月22日からのGo Toキャンペーン開始、10月1日からの東京都への拡大がなければ、発生していなかったのではないか(12月28日にキャンペーンは中止された)。感染者が増えれば、結局、緊急事態宣言を出して人出を抑えるしかない。旅行や外食需要を一時的に変動させただけで、通してみれば、需要の総額を減少させていたのではないか。

 政治家や政府高官の宴会に、人々はとりわけ批判的である。批判的なのは、自分たちだって宴会したいのに何なんだ、という気持ちがあるからだ。ということは、コロナが落ち着けば、予算を使わなくても外食需要は伸びるということである。Go Toの3兆円は、直接、所得保障にも医療体制の強化にも使えたはずだから、失敗だろう。