解決のヒントはM字カーブにあり

──少子化対策を考える上でのポイントを教えてください。

宮路:考え方として、まず大事なのは「産みやすさ」と「育てやすさ」を同時に考えることです。

 産みやすい環境を整えても、育てやすさがなければ、子どもを産み、育てようとは思いませんよね。なので、子育て世代、世帯にとって「育てやすい環境とはどういうものか?」を考え、環境を整備していく必要があります。

 たとえば「女性の労働環境」や「働きやすさ」は、家庭の経済状況を良くする意味でも、女性のキャリアの視点でも、「産みやすさ」「育てやすさ」に大きく影響するポイントだと感じます。

 女性の年齢ごとの就労状況を示した「M字カーブ」がありますよね。出産し、子育てしている世代は、どうしても就労割合が低くなっていく。そのためにM字のように凹んだ曲線になるという、いわゆる「M字カーブ」です。

 そのカーブも、都市部ほど谷が浅くなり、都市部から離れるほど深くなる傾向があるんです。

──「都市部ほど働きやすい(復帰しやすい)」ということですか?

宮路:たとえば、都市部の職場で働いている女性が通勤に2時間もかかるようであれば、子育てをしながら通うのは難しいので、どうしても長く休みを取ったり、退職せざるを得なくなる。

 時間的にも、体力的にも厳しくなるので、働きながら子育てするのは難しくなります。しかし女性が働かなければ経済的に厳しいとなれば、「子どもを産み、育てること」自体を諦めなければならなくなります。こうした「距離の問題」は地理的視点において非常に重要です。

 ひと昔前、子どもを産んで育てると言うと「女性が家にいることが大事」というイメージが強かったのですが、現代はむしろ逆で「女性が働きやすい環境」を整えることこそが「産みやすさ」と「育てやすさ」に繋がっていく。

 こうした施策を積極的にとっていくのも、重要なポイントの一つだと思います。

リモートワークの「意外な弱点」とは?

──コロナ禍でリモートワークが増えたのは、子育てをしながら働きやすい環境を作るヒントになったと言えるかもしれませんね。

宮路:それはたしかにそうだと思います。通勤の距離がなくなれば、それだけ働きやすくはなるでしょうね。

 ただ、ここで忘れてはならない地理的視点は、日本は地震など災害の多い国だということです。たとえば「100%リモート」にしてしまうと、災害時にインフラが切断され、すべてが機能しなくなるリスクがあります。

 リモートワークに限らず、電子マネー推進の話でも通じるところですが、災害の多い国で暮らしている以上、「100%デジタル」にするのではなく、アナログの要素もバックアップ機能として残しておくことも大切です。

──ひとことで「地理」と言っても、本当にさまざまな視点で、いろいろな問題に関わってくるものなんですね。

宮路:まさにそうです。地理というのは、私たちの生活に直結している学問ですし、地理の知識を持っていると、常に「新しい視点」や「もうひとつの見方」ができるようになります。

 だからこそ、もっと多くの人に地理を学んで欲しいと思っています。

「日本は世界一の超高齢社会」解決のヒントはM字カーブにあり宮路秀作(みやじ・しゅうさく)
代々木ゼミナール地理講師、日本地理学会企画専門委員会委員
鹿児島市出身。「共通テスト地理」から「東大地理」まで、代々木ゼミナールのすべての地理講座を担当する実力派。
地理を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。
生徒アンケートは、代ゼミ講師1年目の2008年度から全国1位を獲得し続けており、また高校教員向け講座「教員研修セミナー」の講師や模試作成を担当するなど、いまや「代ゼミの地理の顔」。2017年に刊行した『経済は地理から学べ! 』はベストセラーとなり、これが「地理学の啓発・普及に貢献した」と評価され、2017年度の日本地理学会賞(社会貢献部門)を受賞。大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも加わり、2021年より日本地理学会企画専門委員会委員となる。
またコラムニストとして、「Yahoo! ニュース」での連載やラジオ出演、トークイベントの開催、YouTubeチャンネルの運営、メルマガの発行など幅広く活動している。著書に『経済は地理から学べ! 』(ダイヤモンド社)、『目からウロコのなるほど地理講義(系統地理編)・(地誌編)』(学研プラス)などがある。
「日本は世界一の超高齢社会」解決のヒントはM字カーブにあり