TSMCが新たに目指す
「エコシステムの創出」

 半導体需要に目を向けると、WSTS(世界半導体統計)は、2021年の世界半導体市場は前年比19.7%成長すると予想している。その要因は、SNSの利用拡大、データの保存・分析の増加、自動車の電動化や自動運転技術開発などだ。半導体価格は変動しつつも、ここから先、顧客(ファブレス企業)からTSMCへの要求水準は一段と高まるだろう。

 そうした変化に対応するためTSMCは、半導体生産工程の「プロセス・イノベーション」を目指していると考えられる。つまり、TSMCはファウンドリーに後工程のビジネスを結合することによってファブレス企業との関係を強化し、付加価値が自社から逃げない「エコシステムの創出」を目指しているとの印象を持つ。

 後工程では、研磨剤やメモリやロジックを載せる基盤、封止用エポキシ樹脂など極めて微細かつ高純度の材料が必要だ。わが国には、そうした高付加価値の半導体部材を供給するメーカーが多く集積する。TSMCとの協働事業にわが国の半導体部材メーカーが多く参画するのは、同社が本邦企業の生産する高付加価値部材をより必要とし始めたことを示唆する。研磨や検査などの装置にも同じことがいえる。

 見方を変えれば、TSMCが求める半導体部材などの代替供給者は見当たらないと考えられる。それは、日韓企業の関係から確認できる。日韓関係の悪化によって、高純度の半導体部材などの円滑な調達が難しくなるという韓国企業側の危機感から、今、わが国素材メーカーは韓国に直接投資を行う事例が増えている。

 韓国は台湾と並んで世界経済への半導体供給地として重要性が高まっている。TSMCはわが国の半導体部材や後工程で用いられる装置などの供給者とのより強固な関係を目指し、より有利に事業を運営するために、つくば市に後工程の技術開発拠点を設けたと考えられる。