米バイデン政権は補助金を用いて
「必要に応じた政府介入」へ

 わが国には最先端分野での世界的な半導体メーカーが見当たらず、先行きは楽観できない。ただし、現在、本邦の半導体部材、製造装置メーカーの競争力は高い。TSMCは最先端の半導体生産技術の強化を目指している。

 ということは、半導体部材、製造装置に加え、汎用型の生産技術を用いる車載、パワー、音響、映像関連の半導体分野で一定のシェアを持つわが国企業のビジネスチャンスは拡大する可能性がある。

 近年、世界経済の運営を巡って米中の対立が先鋭化している。米国政府は、経済活動と安全保障面で重要性が高まる最先端の半導体の自国生産を増やそうとしている。そのために、バイデン政権は補助金を用いる考えも示した。それは、「自由放任」から「必要に応じた政府介入」へ経済運営のゲームチェンジを意味する。その状況下、TSMCは米国に数兆円規模の投資を検討し、サムスン電子も約1兆8500億円、インテルも2兆円規模の投資を行う予定だ。

 中国は補助金政策や海外からの技術移転を強化して、「中国製造2025」の実現を目指すだろう。最先端の半導体生産技術を巡り、米中の競合は先鋭化する可能性が高い。それに伴って、わが国企業が生産する半導体部材や装置を、米中はより多く必要とするはずだ。

 他方で、中国はTSMCの半導体生産技術などを狙って台湾への圧力を強める可能性がある。また、台湾では人材や水(超純水)、電力の不足も深刻だ。地政学リスクや気候変動への対応の観点からも、TSMCにはわが国に拠点を設ける意義がある。その潜在的な可能性は大きいと考えるべきだ。それをどう生かすかは、本邦企業と政府の取り組みにかかっている。

 中国企業の台頭など厳しさ増す事業環境ではあるが、わが国の半導体部材や製造装置メーカーには、微細、精緻なモノづくりの力を磨き上げ、台湾、韓国、米国、中国からより必要とされる存在を目指すことが求められる。それが中長期的なわが国の社会と経済に与えるインパクトは大きい。