【第3の習慣】
ユーザー>チーム>自分の順番で捉える
星:シリコンバレーで生き抜くための3つ目の習慣はどのようなものでしょうか。
田村:自分にとっては、ここで生き残るための一番大事な習慣なんですが、「ユーザーがいて、チームがいて、自分がいる」という捉え方です。
星:アメリカ的な「me first」とは反対ですね。
田村:ええ。シリコンバレーはやはり「me first」の世界に見えます。
「おれはこんなにすごい仕事をしたんだぜ」と主張する人の方が成功しやすい。
しかし、日本人の自分にとってそうすることは難しい。
大きな壁でした。
どうしたものかと悩んでいるときに、1冊の本に出合いました。
シリコンバレーで有名なコーチであるビル・キャンベルのことを書いた『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』(ダイヤモンド社)です。
ビル・キャンベルはチームを大事にするんですが、これを読んで、「me first」はできなくても、お客さんがいて、チームがいて、その中に自分がいると捉えれば、主張することができると気がつきました。
「誰かのためにやっている」という意識を持つと、自信も持てるし、強くなれます。
星:つい最近、Zoomの創業者でCEOでもあるエリック・ヤンが、
「まずお客さんの価値観があって、そこに共感することから」
という主旨のことを話していたのを思い出しました。
田村さんのお話に通じる面がありますね。
田村:エリック・ヤンは中国出身ですよね。
きっとみんな苦労しているんだと思います。
アジアにルーツを持つ人々にとって「me first」というカルチャーはなじみのないものなので、「リーダーシップがない」と見られてしまうことも少なくありません。
星:田村さんはプロダクトマネージャーですが、チームをまとめるリーダーとして主張していく際に気をつけているポイントはありますか。
田村:客観性ですね。
チームのメンバーに何かを伝えるときには、「こういうお客さんが使うから、こうしなければならないよね」という伝え方を心がけています。
そうすることで、私の主張ですが私個人の主張ではなくなります。
星:なるほど。
田村:ユーザー>チーム>自分の順番で捉えることで、客観性が生まれます。
自分の中では、プロダクトマネージャーは責任をとる立場という感じで、特別な決定権があるとは考えていません。権限がない中で難しい決断をするには、客観性が大事です。
星:権限がないというのは意外ですね。
田村:私自身が前のめりになって決めるのではなく、決められないことが出てきたら決めてあげる感じです。
数値やロジックで進んでいくと、最後に必ずそれだけでは決められない問題が出てくるんですよ。
たとえば、このボタンを何色にするかというようなことです。
そういうときには私に話がきます。
「わからないから、決めてくれよ」と。
私は「じゃあ決めるよ」という感じです。
星:田村さんのお話を通して、グーグルが成功している秘訣に触れたような気がします。
というのは、もしプロダクトマネージャーが全部決める体制だったら、きっとうまくいかないですよね。
一人の人間が何でもわかっているわけではないという意味でも、ワンマンチームになってしまうという意味でも。
田村:ユーザー>チーム>自分の順番で捉えるというのは、結局、ユーザーファーストということだと思います。
ユーザーファースト=お客様第一。実はグーグルと日本企業って、けっこう似ていると思うことが多々あります。
シリコンバレーのカルチャーにショックを受け、いかにアジャストしたかという話をずっとしてきましたけれど、自分の中でその過程を消化してふと気がつくと、実は日本で同じようなことを経験したなと思い当たることがよくあります。そこが面白いところですね。
(おわり)