書名に驚いた!

竹内 ポール・ナースのインタビューではエルヴィン・シュレーディンガーの名著『生命とは何か』を意識して書かれたという点が興味深かったです。

 シュレーディンガーは「量子力学の父」とも呼ばれた人で物理学を勉強した人間からするとそれこそ神様のような存在です。もともと実在論的なスタンスで、幅広い分野について考えた人でしたから、科学がめざましい発展を遂げても的確に答えられていない「生命とは何か」という問いに最終的にたどり着いたのかもしれません。

吉森 1944年に発刊された本ですから、当時はDNAも発見されていませんでしたし、細胞分裂の仕組みもわかっていませんでしたよね。

竹内 はい。ですから、バイオテクノロジーの進化も踏まえて、今回、ポール・ナースは生物学者の目で現代版『生命とは何か』を書こうとしたというのが私の印象です。

『LIFE SCIENCE』の著者が激賞! 伝説の科学者が「生命とは何か」という最大の謎に挑んだ凄い本竹内薫(たけうち・かおる)
1960年東京生まれ。理学博士、サイエンス作家。東京大学教養学部、理学部卒業、カナダ・マギル大学大学院博士課程修了。小説、エッセイ、翻訳など幅広い分野で活躍している。主な訳書に『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』(ロジャー・ペンローズ著、新潮社)、『奇跡の脳』(ジル・ボルト・テイラー著、新潮文庫)、『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』(ポール・ナース著、ダイヤモンド社)などがある。

吉森 シュレーディンガーの『生命とは何か』は我々世代の生物学者の大半は読んでいるんですね。私は他にも『偶然と必然』(ジャック・モノー著)『進歩の終焉』(ガンサー・S・ステント著)などに影響を受けましたが、『生命とは何か』はとりわけ印象深いですね。

 というのも、竹内さんが指摘されましたように非常に抽象的で哲学的な議論なんですね。そもそも生命科学者は「生命とは何か」と考えませんから、タイトルからして驚きました。

竹内 生命科学者は考えないテーマなんですか。

吉森 興味がないわけではないんですね。むしろ逆で、そんな壮大なことを考え始めたら、悩んでしまって実験できなくなるんですよ(笑)。最大の謎なのは間違いないんですが、最大の謎だからなるべく考えないようにしている。そこに物理学の巨人であるシュレーディンガーが横から「生物は負のエントロピーを食べて生きている」とか言い出したんですね(笑)。

 シュレーディンガーは生物学者でないから、俯瞰して書けたんだと思います。シュレーディンガーの内容は別として、生物学者としてはモヤモヤした気持ちもあって、「これは生命科学者がいつか書くべきテーマだな」という思いはありましたね。それは、ポール・ナースも同じ気持ちだったのではないでしょうか。『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』は生命科学者側からのシュレーディンガーに対する約80年越しの回答でもありますね。