『LIFE SCIENCE』の著者が激賞！ 伝説の科学者が「生命とは何か」という最大の謎に挑んだ凄い本

ノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者ポール・ナースの初の著書『WHAT IS LIFE?（ホワット・イズ・ライフ?）生命とは何か』が世界各国で話題沸騰となっており、日本でも発刊されてたちまち5万部を突破。朝日新聞（2021/5/15）、読売新聞（2021/5/3）、週刊文春（2021/5/27号）と書評が相次ぐ話題作となっている。
本書の発刊を記念して、訳者竹内薫氏と吉森保氏（細胞生物学者、大阪大学栄誉教授）の対談が実現した。『WHAT IS LIFE?（ホワット・イズ・ライフ?）生命とは何か』について、また、ノーベル賞受賞者の共同研究者である吉森氏のベストセラー『LIFE SCIENCE（ライフサイエンス） 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』の読みどころや魅力について、お二人に語ってもらった。（取材・構成／栗下直也）

神様みたいな研究者

竹内薫（以下、竹内）『WHAT IS LIFE?（ホワット・イズ・ライフ?）生命とは何か』は2001年にノーベル生理学・医学賞を受賞したポール・ナースの初の著書です。ポール・ナースは日本では馴染みがないかもしれませんが、生物学界の巨人ですよね。

吉森保（以下、吉森）　ええ、神様みたいな存在です。存命中の生命科学者の中では伝説みたいな方ですね。学会で一緒になったことはありますが、偉大すぎて近づけません（笑）。

竹内　ポール・ナースは細胞分裂の周期を調節する仕組みを解明したことで歴史に名を残していますが医療・医学の世界でも大きな発見だったわけですね。

吉森　はい。細胞は分裂、休止、遺伝子を乗せたDNAの複製という一連の周期を繰り返しながら増殖します。これはあらゆる生物に共通しています。このサイクルを制御する仕組みに異常が起き、際限なく分裂し続けるのが、がん細胞です。

　ですから、生命活動の基本といえる細胞周期がどんな仕組みでコントロールされているかは、医療、医学の分野では非常に重要なテーマです。ポール・ナースは細胞分裂の調節に重要な働きをする「cdc2」という酵素の遺伝子を酵母で発見しました。

　そして、これと同じものが人間にもあることを明らかにし、「CDK1」と名付けています。これらの功績でノーベル賞を受賞しました。ですから、この本を読んで驚きました。「あんなに偉い人が、こんなに分かりやすい本をよく書いたな」と。読む前に目次に目を通した段階で「あ、もう間違いなくいい本だ、成功しているな」と思いましたね。

竹内　生命という壮大なテーマを「細胞」「遺伝子」「進化」「化学」「情報」の5つの視点から分かりやすく語っていますよね。

吉森　はい。この5つの視点は生命科学者であれば誰でも考えますが、この5つだけで全体のストーリーをつないでいるところがこの本の真価です。著者自身の病気の発症（心臓疾患）も細胞の変化などから説明していてわかりやすいですよね。5つのステップで説明しているので、生命科学の本にありがちな難しい言葉の羅列にもなっていません。

竹内　ポール・ナースにインタビューさせていただいたんですが、一生懸命書いたことを強調されていたのが印象的でした。一般向けの文章を自分は書いたことがないので、うまく書けないから何度も何度も書き直したそうです。

吉森　そうでしょうね。ただ、一般の方には読みやすい代わりに、生命科学者の多くや少し専門知識のある読者はこの本を読むと「当たり前のことが当たり前に書いてあるだけでは」と感想を抱くかもしれません。でも、そうした人達がこの本を書けるかと言われれば書けないんですね。

　知っているから書けるわけではない。専門家は知りすぎているからエッセンスを抽出できません。捨てられないんですね。本書は情報を必要最小限に切り詰めて、「生命とは何か」を語った良書ですよ。