「まずは、作品を鑑賞することで医療にあまり関わることがない人たちが、医療を取り巻く課題みたいなことに触れるきっかけになってくれたらいいなと思います。

 理想としては展示を見て、『これ、自分も気になっていたことだな』とか、『うちの会社でも同じような課題があるから、協働で何かできるかもしれないな』とか、医療の周りの課題を一緒に解決してくれるような人や企業が増えてくれたらうれしいです。

 医療情報って、ネガティブなイメージがありますよね。話題にしにくいというか。

 例えば、ヘルプマーク(障害や疾患などがあることが外見からは分からない人が、支援や配慮を必要としていることを周囲に知らせることができる)を付けている人に、『そのマークはどうして付けているんですか』とか『あなたはどんな疾患があるんですか』と聞く人は少ないと思います。また、ヘルプマークに限らず、病気について自ら話し始めるきっかけは少ないものです。ヘルプマーク自体、知らない人も多いかもしれません。

 でも、もし僕の作品を身に着けてもらえたら、『かっこいいね、それ何』と聞かれることがあるかもしれません。『かっこいいね、教えて』というポジティブなきっかけから、社会課題や自分の病気についてなど、普通ではなかなかできない会話に発展するかもしれない。結果的に、その病気や社会課題が共有され、解決のために動くプレーヤーが増える可能性がある。

 そこまで行かなくとも、聞いてくれた人はその病気のことを知るだろうし、ほかの人にも話してくれるかもしれない」

 ゆえに、『アートが痛みを減らすっ展!?』は、鑑賞し終えた後の行動も「作品」の一部になる。

「現代美術作家は問題提起をする、それはいいことだと思いますが、問題提起した後に、提起した課題を誰が解決するのかといったら、実は他人任せ。作家自身が解決しようとは思っていなくて、ただ問題提起するだけして、解決策は他人に任せているというのが僕はすごく嫌で、かっこよくないと思います。

 問題提起するだけでなく、その課題を解決するために自分で行動する、というのが、僕とほかの現代美術作家との違い。問題に対して提起から解決策までひっくるめて取り組むのが僕の中の現代美術です。これをやっている人はいない。それが僕のこだわりです」

(監修/歯科医師・医学博士 長縄拓哉)

長縄拓哉(ながなわ・たくや)歯科医師・医学博士
2007年、東京歯科大学卒業後、08年より東京女子医科大学病院歯科口腔外科で口腔腫瘍、顎顔面外傷、口腔感染症治療に従事。12年よりデンマーク・オーフス大学に留学し、口腔顔面領域の難治性疼痛(OFP)について研究。口腔顔面領域の感覚検査器を開発し、国際歯科研究学会(IADR2015、ボストン)ニューロサイエンスアワードを受賞。18年、ムツー株式会社を設立し、代表取締役に就任。現在は、訪問歯科を続けながら、デンマークと日本の研究活動推進プロジェクトJD-Teletech(日本代表)や(一社)訪問看護支援協会BOCプロバイダー認定資格講座(総括医師)、がんと言われても動揺しない社会を目指すCancerX、現代美術を用いたコミュニケーションデザインなど、社会課題を解決するための活動をメインに行っている。