紙とデジタルでは
記憶される中身が変わる

 SNSの「いいね」ボタンはまさに脳のこの仕組みを突いている。自分がアップした写真や記事に誰がいいねを押したのか、何人が押したのか、SNSを開かなければわからない。「もしかしたら?」に突き動かされ、人はスマホを開く。

「企業は心理学を使い、精神の深い部分に訴えかけます。だからデジタルデバイスに触らずにいることは難しい」

 デジタル化された情報と元のアナログ情報とは、同じように見えて脳の受け止め方は違うらしい。ハンセン氏は紙の本とPDFデータでは、同じ内容でも記憶される中身が変わるのだという。

「電子版よりも紙の方が学びの質が高いのです。内容が複雑になればなるほど、紙で読む方が学びの質が高まります。なぜかはわかりません。記憶と三次元で学ぶことが関係しているのかもしれません」

 ハンセン氏によれば、現在の研究結果は紙とデジタルとでは質的な違いがあることを示している。紙の方があきらかに良いのだ。

「私たちとスマホの関係は、これから果てしなく続くデジタルとの関係の入り口にすぎません。こうしたテクノロジーはやがて私たちの肉体に侵入し、血圧や心拍数を測定し、感情の動きを分析するでしょう。私たちにはもっと議論が必要です」

 ハンセン氏は、デジタル技術が人間や生物にとって適切なのかどうかの議論はもっとなされるべきだと考えている。

「デジタル化は私たちを脅かしています。かつてないほど睡眠時間と運動時間を奪い、不安やうつに対して私たちを脆弱(ぜいじゃく)にしています。私はスマホが他のエンターテインメント製品よりも中毒性が高いと考えています」