菅義偉首相と河野太郎行政改革担当大臣菅義偉首相(右)と河野太郎行政改革担当大臣が繰り出す規制改革に電力業界は戦々恐々としている Photo:JIJI

菅義偉首相と河野太郎行政改革担当大臣の「ガースー・太郎」コンビが繰り出す規制改革に、電力業界が戦々恐々としている。このコンビが前面に押し出す「再生可能エネルギー最優先の原則」は、大手電力会社がエネルギー分野で主役から陥落することを意味するからだ。ひいては、電力業界の再編につながる可能性もある。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

太郎主導の「再エネタスクフォース」の主張が
規制改革実施計画で丸のみ

 大手電力会社の関係者は、いら立っていた。「これってほとんど再エネタスクフォースの主張そのままじゃないですか。専門家の議論とかどうでもいいってことなんですね」。

 前出の関係者がいら立つ理由は、6月18日に閣議決定された菅義偉首相肝煎りの規制改革実施計画にある。

 この計画で設けられた「グリーン(再生可能エネルギー等)」の項目では、菅首相が二酸化炭素(CO2)の排出量を2050年に実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言したのを踏まえ、脱炭素社会で再エネを最大限導入するために規制改革をすべきとうたった。

 中でも再エネを最大限導入するために掲げた三つの原則「再生可能エネルギーの最優先の原則」「柔軟性を重視したエネルギーシステム改革の原則」「公正な競争環境の原則」について、次期エネルギー基本計画(エネ基)に盛り込むよう働きかけている。

 もともとエネルギー政策は、経産省が所管している。そして次期エネ基は今、有識者らによる経産省の審議会で、策定に向けた議論が大詰めを迎えている。そんな状況下で閣議決定された規制改革実施計画は事実上、エネ基を議論する審議会への強烈な“圧力”となっている。

 エネ基はこれまで、あらゆるエネルギー政策の中で頂点に位置付けられてきた。まずはエネ基を固めてから、それに関連してCO2の削減目標などが決まってきた経緯がある。

 こうした経緯をすっ飛ばし「政治主導」という形で、経産省の審議会に圧力をかける「越権行為」に、前出の関係者がいら立っているのだ。

 しかも、である。

 規制改革実施計画の「グリーン」項目は、菅首相と昵懇(じっこん)の間柄である河野太郎行政改革担当大臣が自ら設置し、構成員も選んだ「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF)の主張が丸のみされている。規制改革実施計画の再エネ分野については、「ガースー・太郎」コンビの意図が色濃く出たものなのである。

 実のところ、20年9月の菅政権発足以降、政治主導でエネルギー政策が決まっているケースは少なくなく、特に大手電力は蚊帳の外に置かれている。脱炭素社会では、大手電力はエネルギー分野で主役から陥落するのだろうか。