アフガン政府の財政はほぼ全額が外国からの援助で、日本も68億ドル(約7400億円)を支出、特に警察官9万人の給与の大部分は日本が担ってきたし、海上自衛隊による米国軍艦などに対する給油も行われた。 

 経済援助は公共事業や教育にも使われたから、すべてが無駄ではないとしてもタリバン政権が20年ぶりに復活することになれば徒労の感は免れない。

 米国に見捨てられたアフガン政府、政府軍、警察部隊の幹部たちや米軍の通訳などの協力者をタリバンがどう処置するかも問題だ。日本国刑法81条では「外国と通謀して日本国に対し武力行使させた者は死刑に処す」と定めている。

 タリバン側としても、米軍が去った途端にアフガン政府軍、警察部隊と戦って排除すれば米国の面目を失わせ、再介入も起こりかねないから、しばらく時間をかけて政府軍の自壊が進むのを待って一掃に出るかもしれない。

 ベトナム戦争では米国は多数のベトナム人協力者の幹部を自国に引き取ったが、当時ほど移民に寛容でなくなった米国がどうするかは注目される。

 協力者を見殺しにすれば、米国の威信は低落し、今後、他の国で協力者を獲得しにくくなる。タリバンの報復を恐れる人々は北隣のタジキスタンなどに流入し、難民問題が起こる可能性は十分ある。

英国、旧ソ連に続いて
大国の支配の思惑3連敗

 そもそも米国のアフガニスタン攻撃に「正義」があったのかどうかだ。

 米国は「タリバンはテロの首謀者をかくまっている」とし、大規模テロに衝撃を受けた各国も米国に同調し、国連も事実上、攻撃を容認した。

 だが冷静に考えれば、犯罪者の引き渡しに証拠が必要なのは当然だ。ビンラディンが米国でのテロ計画を事前に知っていたことは十分ありそうだが、彼がいつ、どこで、誰に対し、いかなる指示をしたかとの犯罪事実を当時、米国が確定し、その証拠を示すことはできなかった。

 日本の犯罪人引き渡し条約でも引き渡し要求には犯罪事実、証拠などを示すことが必要だ。アフガニスタン側が引き渡しを拒否したのは法理にかなっていたといえる。

 アフガニスタンで医療活動や農業支援などに尽力しながら凶弾に倒れた中村哲医師は、「タリバンが狂信的集団のように言うのは間違いだ。彼らは田舎風のしきたりを守ろうとしているだけ」と生前、語っていた。

 タリバン政権はビンラディン引き渡し問題では国際的なしきたりに従ったといえよう。