コロナ禍でテレワークや「巣ごもり」によって自宅で過ごす時間が増えたことで、可処分時間を有意義に使おうと「独学」がブームになっている。
情報や技術が瞬く間にアップデートされ、既存の知識や常識があっという間に陳腐化して通用しなくなるいま、時代に取り残されないためには「独学」で最新の知識やスキルを習得することが必要不可欠だ。
しかし、 いざ独学をするとなると、どう進めればいいのか戸惑う方も多いだろう。SNSでも「やり方が見当もつかない」「何から始めればいいんだろう」などと、独学の方法や手順に悩んでいる人たちの声が多数上がっている。
そこで、独学の指南書として必読なのが、MBAを取らずに独学で外資系コンサルになった「独学のスペシャリスト」の独立研究者・山口周氏が実践している、知識を使いこなす最強の知的生産メソッドを明かした『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社刊)だ。
本書では、独学を「①戦略②インプット③抽象化・構造化④ストック」という4つのモジュールから成るシステムとして考え、各ステップの質を高める方法を紹介している。
本稿では、『知的戦闘力を高める 独学の技法』から一部を抜粋・編集し、山口氏独自の独学システムのうち、「①戦略」に必要な考え方について解説する。(構成/根本隼)

勉強しているつもりが実は「バカ」になってしまう間違った読書法とは?Photo:Adobe Stock

「何を学ばないか決める」のが戦略

 独学の戦略とは、一言でいえば、「何について学ぶか」という大きな方向性を決めるということです。これは逆に言えば「何を学ばないか決める」ということになります。

 現在の私たちが生きている世界は、大量の情報によってオーバーフローが発生しています。知的好奇心が旺盛な人にとって、これはとても残念で悔しいことなんですが、独学に使える時間は無限ではありません。独学の戦略を考察するにあたって、依って立つ最大の立脚点がこの認識ということになります。

年間約50冊がインプットの最大量

 平均的な大人が1分間に読める文字数はだいたい200~400語であり、平均的なビジネス書は10~12万字前後となっています。仮に読書スピードを中間レベルの1分間300語とした場合、一般的なビジネス書であれば5~6時間程度で1冊読了できるということになります。

 本を読んで得た情報は、抽象化・構造化を行った上で、将来必要になったときにすぐ引き出せるよう、自分なりの知的ストックに貯蔵しておくことが必要です。この抽象化・構造化とファイリングにもまた、1時間程度はかかることになりますから、読書時間も含めれば、だいたい1冊のビジネス書でも6時間程度の時間が必要ということになります。

 仮に独学のために使える時間が1日平均1時間程度だとすると、つまり1週間で1冊程度、年間では50冊程度のインプットが、まずは精一杯だということになります。

独学の方針はジャンルではなくテーマで決める

 独学の戦略を考えるというのは、突き詰めていえば、「1年間で読めるマックスの50冊を、どのようなテーマやジャンルの学びに分配するか」ということを考えることにほかなりません。ここで注意しなければならないのは「独学の方針は、ジャンルではなく、むしろテーマで決める」ということです。

 テーマとは、自分が追求したい「論点」のことです。たとえば、私の場合は「イノベーションが起こる組織とはどのようなものか」とか「美意識はリーダーシップをどう向上させるのか」とかといったテーマを持って独学に臨んでいます。

 このテーマの数は時期にもよりますが、だいたいは五つから七つほどになります。これらのテーマに対して、自分なりの答えを追求していくために独学しているのであり、したがって、「何をインプットするか」は、これらのテーマについて何らかのヒントや気づきが得られるかどうか、というのが判断のポイントになってきます。