『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が20万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
「どうしても理解したいのに、全く理解できない」そんな本と出会ったらどうすればいい?
どうしても理解したいが全くもって理解できない本と出会った時の対処法が知りたい中学生です。
自分は教科書以外の読書一冊目として『アンチ・オイディプス』という哲学書に手を出しましたが冒頭の一文すら理解できず不満を感じています。ちなみに動機は、突然哲学の世界に飛び込みたくなったの一言です。
哲学書には学校の教科書のように順序立って進んでいく過程というものが示唆され得ない様な、個が独立して完結する存在というイメージがあり、身動きがとれないでいます。
まるでコントの様な文章になってしまいましたが自分は真剣なので、行動のヒントになるような回答を期待しています。
「本を読んでわからなかった」これに気づいただけで、すごいです
[読書猿の回答]
とてもよいご質問だと思うので、丁寧にお答えしようと思います。最初に文章を読むとはどういうことかを、次に「理解できない本」との付き合い方を、最後に「哲学書をどのように読むのがよいか」を述べたいと思います。
まず、文章を読むことについてです。
最初に知っていただきたいことは、読んですぐに分かる文章は実に限られていること、世界にあるほとんどの文章は簡単には理解できないことです。
私達の多くは自分に理解できる文章を選んで読むことが多いので、逆にいえば、一読して分からないものは放り出して忘れてしまうことが多いので、読んでわかることはむしろ珍しいのだということに気づきません。これに気づくのは、あなたのように自分の実力を顧みず無茶な挑戦をする人、難しかろうが読んでやるんだと無謀なチャレンジをする人です。
この事実に気づくだけでも、その後の読書生活は全く違ったものになります。
無自覚に分からないものを避けて通る読書家は、知らないうちに自分をごく限られた書物や文章のうちに閉じ込め、本に書いてあることなど高々こんなものだと決めつけて、しかもそのことに気づかぬまま生涯を終えるでしょう。
反対に、自分が分からない文章や書物があることを当然のものと知った人は、書物の森や文献の海の本当の広さと深さを思い知る機会を得て、将来、自分が思いもしなかった書物や文献に助けられる可能性を開くでしょう。
では具体的に「理解できない本」とどのように付き合えばいいのでしょうか。
まずは「わからない」にもいくつか種類があることを理解できると、それぞれの「わからない」について何をすればいいか、方針のようなものが立ちます。
次のリンクに、以前にマシュマロで「分からない」と付き合う方法についてのご質問に答えた解答があります。
「分からない」と付き合う方法教えていただきたいです
『独学大全』という本には、同じことをもう少し丁寧に説明しました。というのも、独学をしていけば、かならず繰り返し「わからない」状態に陥り、対処する必要が出てくるからです。もしよければめくってみてください。
さて、上記のような「分からない」への対処法は、詳しくない言語(時には暗号)を解釈するのにも使える汎用的なものですが、目下の我々の課題は、『アンチ・オイディプス』という哲学書を読むことです。
これには何をすればいいでしょうか。
一般に、哲学書が難しいのは、我々を宛先に書かれたものではないからです。ドゥルーズ=ガタリは日本の中学生であるあなたに向けてこの本を書いた訳ではありません。
これはつまり、著者と想定読者が共有している問題意識や、理解に必要な前提知識を、我々は欠いている(場合が多い)ことを意味します。
何故その書物が、何の目的で書かれたか、この本で一体何をしようとしているのか等、知らないままページを開いても、部分の意味を推測する知識もないまま、そして全体を理解のための/解釈を限定するための文脈を欠いたまま、挑むことになります。
しかし我々想定外の読者にもできることはあります。一番手っ取り早く有効なのは、援軍を呼ぶことです。あなたが湯水の如く資金を使える富豪中学生ならば、ドゥルーズ=ガタリに詳しい人に個人教授を依頼し、分からないところは解説してもらいながら、この本を読み進めることができるかもしれません。
しかし多くの場合、中学生でなくとも、そこまでの資金は使えないでしょう。
代替手段として、我々は、難しい書物を読むために、援軍として別の書物や文献を使うことができます。いくつかの手助けになる書物をご紹介しましょう。
まずドゥルーズがどんな問題にどんなやり方で取り組んだ哲学者なのかを知るために、おすすめできる入門書の中では唯一文庫になっている次の本を。
千葉雅也『動きすぎてはいけない ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学 』(河出文庫)
この本を読むのに、いくらか哲学の知識が必要かもしれません。
最低限の知識を手っ取り早く得られるもののうち、一番読みやすいのは『哲学用語図鑑』(プレジデント社)が有用でしょう。
さてドゥルーズについて概要がつかめたとして、実際に『アンチ・オイディプス』を読むには、もう何段階か間を埋める「踏み台」があった方がよいかもしれません。
まず、芳川泰久・堀千晶『ドゥルーズキーワード89 増補新版』(せりか書房)を手元においておくと、ドゥルーズに特有の用語を理解するのに役立つでしょう。
もう一冊は、ほとんど『アンチ・オイディプス』の注釈書というべき、仲正昌樹『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』(作品社)が、分からない部分が出てくる度に開き、個人教授がわりの書物として、あなたの読書のよき同伴者となってくれるでしょう。
何か問題に行き当たれば、またマシュマロを投げてください。ご健闘を祈ります。