人生100年時代は「働き続ける」と「学び続ける」がほぼ同義になっていく。大事なのは、「学ぶことが楽しい」と感じること。こう語るのは、「学びデザイン」の代表として、学びの啓蒙活動を行う荒木博行氏だ。そんな荒木氏が「学びの楽しさを実感するのに最適だ」と絶賛する本がある。代々木ゼミナールで「東大地理」を教え、日本地理学会企画専門委員を務める著者が書いた『経済は地理から学べ!』だ。「地理」を通して現代社会の「理(ことわり)」を説く本で、6万部突破のベストセラーとなっている。本書の面白さについて荒木氏に聞いた。

バラバラの知識が「1本のストーリー」になる

 皆さんは、何かを学んでいて「楽しい!」と感じた記憶は残っているだろうか? 唐突に問いを投げかけてみたが、私はこの問いはとても大切だと思っている。

 もし学びの楽しさを感じた記憶が思い出せないのであれば、これからの世の中を生きていくのはとても辛いものになる。なぜならば、私たちがこれから起きうる不確定な未来を前にして、学ぶことは避けて通ることができないからだ。「働き続ける」という言葉と、「学び続ける」という言葉はほぼ同義になっていく。

 だからこそ、もし学びの楽しさということがまだ経験したことがないのであれば、早い段階でその感覚を思い出した方がいいと思っている。一日でも早く。

 では、私たちはどういう瞬間に「学びの楽しさ」を感じるのだろうか?

 それは、頭の中に点として存在していた知識がつながる瞬間だ。バラバラに点在していた一見関係のない知識に自分なりに接続点を見出せる。それがストーリーとしてつながってくる。

 皆さんにも何かを学んでいた際にそういうつながりを見出して声を出してしまった記憶がないだろうか?「あれ、これとこれは実はつながっているのではないか?ひょっとして…自分は天才ではないか!」と思う瞬間。これこそが、学びの楽しさの正体だ。

 そして、もしそんな学びの楽しさをもう一度味わいたいのであれば、手っ取り早く『経済は地理から学べ!』を読んでみると良いだろう。この本の醍醐味は、一見関係ない経済やビジネスの事象に対して、それを「地理」という補助線からストーリーをつなげてくれることにある。

 たとえば、イギリス料理は一般的には美味しくないと言われている(実際に自分がイギリスに訪問した際も、噂通りの結果だった)。これはなぜか、ということが、本書では地理的・歴史的要因から語られる。

 まず、そもそもイギリスは土壌中に腐食層が少なく痩せ地であり、美味しい野菜が根本的に不足している、という前提条件がある(だからこそ、イングランドは農産物の供給地としてアイルランドに触手を伸ばしていく)。

 さらに17世紀、欧州各国のパワーバランスや宗教的対立によって起きたピューリタン革命から表舞台に立った「ジェントルマン」という支配階層が、飲食に関しては質素な食事を美徳としていたことが、イギリスの食文化に大きな影響を与える。彼らの食に対するストイックな姿勢が、トップダウンでイギリスに質素な食文化を浸透させていったのだ。

 その後、フランス革命によって英仏間の対立が強まるようになった結果、イギリスにおいてフランス文化の排除が起きたことも、イギリスの食文化の形成にインパクトを与えたと言われている。フランスの豊かな食文化が否定されたのだ。このような複雑な地理的かつ歴史的要因により、今日私たちが考える「美味しくないイギリス料理」は出来上がっていったのだ。

 ここに書いたことは、それぞれの要素としては歴史的事実として知っていたこともあるだろう。しかし、それが一本の線ではつながってなかった人が多いのではないか。

 こういったランダムに散らばっていた点が、一本の線としてつながったとき、私たちは知的な喜びを感じることができるのだ。

 その観点で、この本は今までランダムに勉強しっぱなしで知識を意図的につなげてこなかった人にとっては、多くの知的興奮を得られるはずだ。ぜひ本書を通じて、「点が線に変わる喜び」を感じてもらいたい。

 そして、その感覚を脳に焼き付け、これからの変化の時代を「楽しく学ぶ」という武器を手に乗り切っていただければと思う。